「今さら聞けない」「今だからこそ聞きたい」探究をめぐる素朴な疑問のあれこれに一つひとつ向き合っていく連載、今回の特集では「探究って大学受験に役に立つの?」という素朴な疑問への答えを探していきます。
特集「共通テスト×探究」
第1回:一般選抜で大学受験するなら探究は無駄!は本当か
第2回:数学で求められる読解力ってどんな力?
第3回:「正しく誘導に乗る」を体験してみよう
第4回:「教科書の内容を身に付ける」意外なメリットは
第5回:課題設定力を使えば古典が速く解ける! ←今回はここ
大学入学共通テスト(以下、共通テスト)の「国語」(2023年1月実施、本試験)の出題内容を見てみると、探究学習の経験を活用することで課題文や設問文から適切に判断材料を取り出しやすくなる、つまり正解を導きやすくなる設問が多くあることに気づきます。
「共通テスト×探究」連載第5回目となる今回は、国語の中でも古典をとりあげてその内容や使い方について考えていきましょう。
目次
古典は短時間で解け!と言われるが…
共通テスト「国語」は、問題文・設問ともに文章量が多いため、時間が足りない!解ききれない!と悩む人が出やすい科目です。
80分で解答し切るためには時間配分と解く順番が重要とよく言われます。
皆さまの中には、次のような「受験戦略」を聞いたことがある方もいらっしゃるのではないでしょうか。
評論文は文章量も多いし難しいから時間がかかるよね。それに比べれば漢文はあまり難しくないから先に解いてしまおう!短時間でサクッとね!
古文と漢文あわせて30分以内で解いて、現代文の時間を確保しよう!
確かに、現代文は解くのに時間がかかりますので、古典(古文と漢文)を「速めに片付ける」ことができれば時間にゆとりが生まれるでしょう。でも、共通テストの古典を「サクッと」解こうとする前に、気を付けて欲しいことが2つあるのです。
注意①:文章量が意外と多い
2023共通テスト「国語」を確認すると、ページ数は次のようになっていました。
大問番号(種類) | ページ数 |
---|---|
大問1(評論) | 16ページ |
大問2(小説) | 14ページ |
大問3(古文) | 10ページ |
大問4(漢文) | 9ページ |
ページ数だけで見ると、古典(古文+漢文)の合計は19ページ。現代文(計20ページ)に匹敵するボリュームです。
特に古文は、共通テストの難易度はセンター試験に比べて少し高めになったと言われています。単語や文法の知識だけで解ける問題が減り、対話形式の問題も出題されるようになりました。
注意②:複数の文章が出題される
2017年の共通テスト試行調査で話題になったのが、「源氏物語」を書き写した3つの文章を読み比べて解答する形式での出題があったことでした。
その時ほどの難易度ではありませんが、令和4年度、令和3年度とも、古文では一つの大問の中に複数の文章が掲載され、それを資料として使って読み解く出題がされています。
2つ目の文章をヒントとしてうまく使用できれば良いのですが、うまくポイントが読み取れない場合、かえって混乱してしまい、問題を解くのに時間がかかる結果にもなりかねません。
速解きのコツは探究プロセスにあり
単純な暗記では太刀打ちできず、文章量も多い。そんな問題を短時間で解かなければいけないときにこそ力を発揮するのが、探究学習を通じて学んできた4つのプロセスです。
①課題の設定
課題を設定し課題意識をもつ
②情報の収集
必要な情報を取り出したり収集したりする
③整理・分析
収集した情報を、整理したり分析したりして思考する
④まとめ・表現
気付きや発見、自分の考えなどをまとめ、判断し、表現する
古典(古文・漢文)を短時間で解くコツは、「②情報収集」をしているつもりで問題文と設問を眺めることにあります。そして、情報収集をするときにとても重要なのが、②の前段階=「①課題の設定」=何のために情報を集めるのか?を指針としてしっかり持っておくことなのです。
2023漢文の「課題設定」
2023共通テスト「国語」の大問4(漢文)を見てみましょう。
漢文の基礎知識だけで解答できる問題が前年よりも減り、文章の内容理解の問題が増えたため、少し難しいと感じた方も多かったのではないでしょうか。そもそも、「予想問題?模擬答案?何のこと??」と出題された文章の形式にめんくらってしまった方もおられたかもしれません。
でも、大丈夫です。正答への最短距離を探す手助けとして「探究のプロセス」を使っていきましょう。
コツは、「②情報収集」をしているつもりで問題文と設問を眺めることでしたね。
情報収集でまず拾ってほしいのは、「第4問」という文字の下に書いてある説明です。この情報を頭に入れておくだけで、この後に得られる情報の質がぐっと高まります。
唐の白居易は、皇帝自らが行う官吏登用試験に備えて一年間受験勉強に取り組んだ。その際、自分で予想問題を作り、それに対する模擬答案を準備した。次の文章は、その【予想問題】と【模擬答案】の一部である。
大学入学共通テスト「国語」第4問(2023年1月実施、本試験)より
では、出題されている本文(漢文)を眺めてみましょう。
予想問題は2行しかありませんが、模擬答案のほうは2つの段落にまたがる計8行。少し長いですね。そのまま読み始めると少し時間がかかり過ぎてしまうかもしれません。
こんな時は、先に設問をざっと眺めて、出題文を読み解くヒントがないかを探してみるのがおすすめです。
今回は、「問7」に大きなヒントがありました。「【予想問題】に対して、作者が【模擬答案】で述べた答えはどのような内容であったのか」との問いに対して解答の選択肢は5つ作られていますが、これらすべてに共通している表現があるのです。
すべての選択肢に共通しているのは、「君主が賢者と出会わないのは」「~ためであり」「賢者を求めるには」「~べきである」の4つです。選択肢すべてに共通しているということは、この4つは正しい内容であると考えられますので、先ほど(少し長いから、という理由で)読み飛ばした模擬答案の文章には
- 君主が賢者と出会えない理由
- 賢者を求めるためにはどうすればいいか
が書いてあるということがわかります。
この情報を指針としてもう一度本文(漢文)に戻れば、読解にかかる時間はぐっと短縮されるはずです。
このように、設定を頭に入れた上で設問文を先に読むことは、「①課題の設定=何のために情報を集めるのか?」を明確にしてくれるため、「②情報の収集」を高める効果があります。
国語では(古典に限らず)初見の文章の内容をつかむ際に大きな助けとなりますし、他の科目でも役立つ場面は多くあります。そしてもちろん、探究学習の情報収集の時にも大切なポイントですので、ぜひ試してみてください。
2023古文の「課題設定」
では、同じようにして、2023共通テスト「国語」の大問3(古文)を見てみましょう。
「第3問」という文字の下には、次のように書いてありました。
次の文章は源俊頼が著した『俊頼髄脳』の一節で、殿上人たちが、皇后寛子のために、寛子の父・藤原頼通の邸内で船遊びをしようとするところから始まる。
大学入学共通テスト「国語」第3問(2023年1月実施、本試験)より
ついでに、<注>も見ておきましょう。古文では注にも色々とヒントが詰まっています。
9 連歌
大学入学共通テスト「国語」第3問(2023年1月実施、本試験)より
五・七・五の句と七・七の句を交互に詠んでいく形態の詩歌。前の句に続けて詠むことを、句を付けるという。
ここまで読んでくると、どんな場面なのかが少し見えてきます。
貴人のために邸内(にある池)で舟遊びをしてていることと、連歌をしていることが描かれていそうですね。
さて、少し見えてきたとはいえ、本文(古文)をそのまま読んでいくとやはり時間がかかりそうですから、ここでも設問を先に眺めてみることにしましょう。
設問の中で一番長いのは、「問4」です。共通テスト・古典の注意点②として説明した「複数の文章」が出題されているので一見難しそうに見えますが、対話文などの「長い文章」には情報も多く含まれていますので、うまく探せば本文(古文)を読み解くヒントが得られるかもしれません。
教師
大学入学共通テスト「国語」第3問(2023年1月実施、本試験)より
本文の3~5段落の内容をより深く理解するために、次の文章を読んでみましょう。
(中略)
この『散木奇歌集』の文章は、人々が集まっている場で、連歌をしたいと光清が言い出すところから始まります。
生徒A
俊重が「釣殿の」の句を詠んだけれど、光清は結局それに続く句を付けることができなかったんだね。
(中略)
生徒C
なるほど、句を付けるって簡単なことじゃないんだね。(中略)
教師
そうですね。それでは、ここで本文の『俊頼髄脳』の3段落で良暹が詠んだ「もみぢ葉の」の句について考えてみましょう。
ここまで読むと、本文(古文)の第3段落でどんなことが起きているのか、仮説を立てられそうです。
先ほど問題文前の説明と注からわかったこととあわせて整理すると、
- 貴人のために邸内(にある池)で人々が集まって舟遊びをしている
- そこで誰かが連歌をしたいと言いだした
- でも結局、うまく連歌をする(句を付ける)ことができなかった
ということが起きているのではないでしょうか。
なおこの仮説は、問4の(Ⅱ)と(ⅲ)の選択肢で裏付けをとることができます。
このようにざっくりと状況をつかんだところでもう一度本文(古文)に戻って読み解くと、ずいぶん読みやすくなっているのではないでしょうか。
課題の設定が「出発点」である意味は
最後に、探究学習の観点からひとつ補足説明をしておきたいと思います。
このコラムでもすでに述べたように、探究学習には①課題の設定→②情報の収集→③整理・分析→④まとめ・表現という4つのプロセスがあるのですが、その中で一番難しいとされているのが「①課題の設定」(問いを立てる)です。
- 自分自身で問いを立てなければ「やらされ感」が出てしまう…
- でも、自分で問いを見つけることはとても難しい…
- 立てた問いが浅すぎてすぐに答えが見つかってしまう…
- 問いが大きすぎてどうやって深めれば良いかわからない…
等々、「課題の設定」をめぐる悩みは尽きないようです。
でも、そんなふうに行きづまってしまった時はぜひ、探究学習のプロセスは直線ではなくスパイラルであることを思い出していただきたいのです。
「①課題の設定」を重く考えすぎると、探究を始めるハードルが高くなってしまいます。
そんな時は、意識的に「①課題の設定」の意味を軽く考えるようにしましょう。
何か興味を持って、調べ始める時に、情報収集があれもこれも…となり過ぎないようにするため、ある程度内容や方向性の検討をつけておく――「①課題の設定」の最初の役割は、その程度で良いのです。
軽い気持ちで情報を集めをスタートし、集めた内容を整理したり分析したり(場合によってはまとめ・表現までしたり)…と進めた結果、課題やテーマそのものが変わっていくこともあるかもしれません。探究した結果、理解が深まり、さらに深い問いが生まれることもあるでしょう。その時はまた、新たに課題を設定して、情報収集を始め…と進めていけば良いのです。それが、探究のプロセスがスパイラルになっている意味なのですから。
次回のコラムでは、共通テスト「国語」の現代文にはどのように探究学習の経験を活かすことができるのかについて、考察していきます。
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