【かえつ有明の探究をひもとく④】学び方は自分たちで決める!高校新クラス

かえつ有明中・高等学校でサイエンス科・プロジェクト科の主任を務めておられる田中理紗先生のお話、第4弾です。今回は、中学校での探究がさらに進化する中で生まれた「高校新クラス」の現在についてお聞きしました。

特集「かえつ有明の探究をひもとく」

第1回:「安心・安全」あってこその探究
第2回:探究テーマが見つかる環境の整え方
第3回:テーマは自由?継続性は重要?
第4回:学び方は自分たちで決める!高校新クラス ←今回はここ

理想のクラスを立ち上げるならどんなクラス?

――かえつ有明さんには「高校新クラス」があると聞いています。まずはその立ち上げの経緯から教えていただけますか?

かえつ有明中・高等学校 田中理紗先生(以下、田中先生):
高校新クラスを作ったのは2015年ですから今から8年ほど前なのですが、当時、高校新クラスを立ち上げるにあたって私たちは合宿をしたんです。理想とするクラスを1つ立ち上げるとしたら、それはどんなクラスだろう?という問いを突き詰めて考えていって。その結果、気づいてしまったんです。私たちは大学受験の勉強をさせたかったわけじゃないということに。

そこから出発しているので、高校新クラスの授業って、本当にやりたい授業をやるんですね。理科の先生はずっーと気球を飛ばしていたり(笑)、社会の先生は「砂糖の世界史」という本を読ませてそこから問いを出して探究していくみたいなことをやっていたり。ですから、カリキュラムについては学習指導要領に書いてあることを全部カバーすることを目的にはしない、ということが前提になっているクラスなんです。

――それはすごい!そこまで振り切るってなかなかないですよね。お聞きするのも変なのですが、学習指導要領は全部やらないよってそれでいいんでしょうか、大丈夫なんでしょうか…なんてちょっと思ってしまうのですが…。

田中先生:
私たちは私立の学校なのでそもそもそこまで縛りがないということは前提としてあるんですが、なんと申しますか、「カバーしないのが前提」ということではないんです。教科書を使わないと言っているわけではありませんので教科書も普通に使いますし、それこそ授業の仕方や評価の方法も子どもたちと話し合って決めていきますので。

――え!評価の方法もですか!

どんな学び方をしたいかは自分たちで決める

田中先生:
そうなんです。高校新クラスでは、どんな学び方をしたいかは生徒たちが自分で決めることになっていますので、彼らが自分たちで考えるんです。私たちのほうで勝手に決めたりはしません

――自分たちで!ぞれはなかなかできないことですね。評価はたとえば、どんなふうになっているんですか?

田中先生:
たとえば、ある数学の授業では、評価の割合をテストが半分、平常点を半分ずつにしようと決めたんです。

――5:5。どんなふうにその結論にたどりついたのでしょうか。

田中先生:
それはもう、色々な意見が出ました。数学の楽しさをみんなが実感するにはテストの割合は下げたほうがいいんじゃないかとか、確かにテストで良い点を取るためだけに勉強したくはないけどテストの割合が低すぎると挑戦しようという気持ちがそがれてしまうかもしれない、とか。数学が得意な人もそうでない人も主体的に取り組むにはどうしたらいいのかとか、そもそも勉強とは何か、誰のために勉強するのか、そんなことも話していましたね。最終的には「5:5」が勉強や数学が苦手な子も得意な子もみんなでやっていける割合だと結論づけたようですが、大切なのはその結論にたどりつくまでの過程だったと思っています。

――本当にそうだと思います。これは、何名かだけが意見を出して多数決で決まったとかそういうことではなく、みんなで意見を出し合って、数学が得意なお子さんもそうでないお子さんも皆が等しく利益を受けられるのはだいたいこのあたりだよね、という結論を出したということなのですよね。すごく民主的だと思います。

田中先生:
そうですね!

――ちなみに中学校にもそういった、評価の方法を皆で決めるようなことはあるのでしょうか。

田中先生:
さすがにそれはないですね。(高校新クラスは)「こういう学び方が好きだ」ということに気づかないと選べないですから…。中学ではサイエンス科の授業を全てのクラスで学びますので、そこでこういう学び方が好きだな、面白いな、自分に合っているなと思う子たちが(内部進学の場合は)高校新クラスを選択する、という形になります。

逆に言うと、サイエンス科の授業みたいなものはあまり好きではなかった、楽しめなかったという生徒たちは別のコースを選ぶことができますので、そこは本人やご家庭の選択ですね。

入学時の説明はミスマッチがないようにしっかりと

――先ほどのお話は内部進学で高校新クラスに入る場合についてでしたが、高校入学で高校新クラスに入る場合のお話もうかがってよろしいでしょうか。高校新クラスについて理解していただく上で、どんな工夫をされていますか?

田中先生:
保護者さんとお子さんはだいたい一緒にいらっしゃるのですが、それぞれ別のワークショップに参加していただくようにしています。

保護者の方に対しては、高校新クラスの1年生・2年生・3年生の在校生がそれぞれ自分たちのストーリーを語って。その後は小グループに分かれるのですが、そこでもそれぞれの小グループに在校生と私たち教員が入って対話をしていきます。

お子さんに対しては、高校新クラスの在校生たちが実際にどんな授業を受けてきたのかをワークショップ形式で再現していったりします。ですので、説明会の時点から高校新クラスはかなり特殊です、学びそのものがかなり特殊ですので、ミスマッチがないように、「こんなはずじゃなかったのに」ということが起きないように気を付けています。

――学習指導要領に書いてあることを全部カバーはしないよ、ということもおっしゃっていましたものね。特に親御さんが大学進学を絶対と思っておられる場合、ミスマッチが起きてしまう気がします。

田中先生:
そうですね。もちろん生徒たちが望んでいる進路にいけるよう、サポートは最大にしていきますけれども、私たちは高校新クラスの生徒たちには「大学は絶対受験しなさい」みたいなことは言わないんですね。実際に大学を受けない子も毎年出てきますし。ですので、この点は説明会の時にも十分に伝わるようにお話をしています。

――すごく実利的な質問で恐縮ですが、大学入試に推薦の占める割合が大きくなってきた今、ある意味、大学受験を考えて高校新クラスを選ぶご家庭もあるのでは…という点が気にかかります、そのあたりはいかがでしょうか。

田中先生:
親御さんが私たち教員に直接それをおっしゃることはまずないですけれども――私たちが明確に「そういうこと(=大学受験対策)はしません」と言っていますので――そういったご期待があっても不思議はないとは思っております。実際、高校新クラスに入った生徒たちが総合型選抜でかなりいい大学に進学しているとか、海外の大学に結構受かっているということは実際にありますので。

――高校新クラスへの進学後に「やはり一般入試で大学受験をしたい」と思う生徒さんもおられるのではと思います。その場合、何か学校として提供されているプログラムはありますか?

田中先生:
本校では、放課後の講座や勉強合宿など、一般入試をする生徒のために開設している講座が色々とありますので、それを利用することができます。

見学は大歓迎です!

――本日は色々なお話をうかがってきました。最後にひとつ。探究の先進校さんとして、他の学校さんからの見学依頼なども多く受けておられるのではと思います。そうした先生方へのメッセージをお願いできますでしょうか。

田中先生:
私たちは常に見学に対してオープンですので、いつでもいらしてください、とお伝えしたいと思います。本日お話しましたように、私たちが作っているものは常に(最適解ではなく)暫定解だと思っています。ですから、暫定解をブラッシュアップするにあたって、私たちも見学してくださった方々からのフィードバックをいただきたいと思っているのです。見学にいらしていただいたら必ず一緒に対話をする時間を持ちますし、むしろいっぱい教えて欲しいと思っていますので。

――本日はありがとうございました!

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第1回:「安心・安全」あってこその探究 
第2回:探究テーマが見つかる環境の整え方 
第3回:テーマは自由?継続性は重要?
第4回:学び方は自分たちで決める!高校新クラス

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mana-tan

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「学びと探究」(愛称:まなたん)のサイト管理者。オンライン合同学校説明会(https://www.jhschool.site/)の主催者でもあります。

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