【共通テスト×探究②】数学で求められる読解力ってどんな力?

「今さら聞けない」「今だからこそ聞きたい」探究をめぐる素朴な疑問のあれこれに一つひとつ向き合っていく連載、今回の特集では「探究って大学受験に役に立つの?」という素朴な疑問への答えを探していきます。

特集「共通テスト×探究」

第1回:一般選抜で大学受験するなら探究は無駄!は本当か

第2回:数学で求められる読解力ってどんな力? ←今回はここ

第3回:「正しく誘導に乗る」を体験してみよう

第4回:「教科書の内容を身に付ける」意外なメリットは


連載第1回の一般選抜で大学受験するから探究なんてムダ、は本当か」では、大学入学共通テスト(以下、共通テスト)の世界史Bを例に挙げ、共通テストで求められる読解力の正体と、それが「探究のプロセス」のどこで培われる力なのかを見てきました。

今回は、2023年1月実施の共通テスト(本試験)「数学」の出題内容を読み解き、ここで求められた読解力とはどのようなものかを探るとともに、「探究のプロセス」との関係についても考えていきたいと思います。

2023・2022共通テスト「数学」からわかること

日常の場面への数学の活用が目立つ

前年(2022年1月実施)の数学は、Ⅰ・Aの平均点(中間集計)が20点ほど低い約38点であったことが話題を集めました。これも影響したのか、今年(2023年1月実施)は、全体としては前年度よりも教科書に近い問われ方の問題が増えています。

これまでの学習の中で「見たことがある」「解いたことがある」と感じる受験生も多かったのではないでしょうか。

とはいえ、Ⅰ・Aの大問2〔1〕〔2〕やⅡ・Bの大問2〔2〕・大問4のように、日常的なテーマへの数学の活用や各種グラフの読み取りが多く出題されるなど、「教科書のあの公式を使えばよい」と一目ではわからない問題が多いという共通テストならではの特徴は今年も明確に表れていました。

また、Ⅰ・Aの大問5など、直前の問題の結論や検討内容を後半で活用する形式の問題も多くありました。

「日常」の出題が下火にならない理由

日常的なテーマに数学を活用した出題や、”教科書のあの公式を使えばよい”と一目ではわからない問題は、批判を受けることがよくあります。

問題を解く上では必要のない情報も盛り込まれがちであることや、結果として文章量が多くなるため限られた試験時間に解くことが難しくなる、などがそのおもな理由です。

では、こうした問題は今後、(批判を受けて)減っていくのでしょうか。

私はそうは思いません。その根拠は、「大学入学共通テスト問題評価・分析委員会報告書」にあります。

数学Ⅰ・Aの平均点の低さで話題となった前年(2022年1月実施)の共通テスト・数学に対する外部評価を読むと、高校の先生は次のように評価していました。

数学的に処理する力を問うだけにとどまらず,日常生活や社会の事象を数理的に捉える力や,数学を活用した問題解決に向けて,構想・見通しを立てる力,解決過程を振り返り,得られた結果を意味付ける力も問うており,バランスがとれている。(中略) 受験者には質の面でやや難易度が高かった問題も散見されたものの,育成すべき資質・能力の視点に鑑みた際にその意義は重要であり,深い学びを実現させるためにもこのような設問は必要である。

令和4年度大学入学共通テストに対する高等学校教科担当教員の意見・評価より

日本数学教育学会も、同じ試験に対する「まとめ・総評」に次のようなコメントを書いています。

教育現場では,数学の学習が傾向・対策の惰性に陥ることのないよう,引き続き授業改善を行い続けていきたい。共通テストにおいても,今後も,典型的であっても正答率が向上しにくい学習内容から出題を続けていただきたい。また,上記のような内容の本質的な理解を問う設問,統合的・発展的に考える思考力を問う問題,日常生活や社会の事象を数理的に捉え数学的に処理し問題を解決する設問を引き続き出題することを要望する。

令和4年度大学入学共通テストに対する教育研究団体の意見・評価より

ここにあるように、「日常生活や社会の事象を数理的に捉え数学的に処理し問題を解決する」問題は(たとえ受験者にとっては「質の面でやや難易度が高かった」としても)その意義は重要であり、今後も出題していくことが期待されています。そして実際、2025年以降の共通テストサンプル問題を見ても日常的なテーマへの数学の活用を意識した問題は引き続き盛り込まれています。

リード文を読んだ時点では問題の意図や単元、進め方がすぐにわからないような問題は、今後も共通テストで出題され続けると考えて良いでしょう。

共通テスト「数学」で必要な読解力は

初見の課題に立ち向かう姿勢

では、「日常生活や社会の事象を数理的に捉え数学的に処理し問題を解決する」問題など、見たことのない問題を解くためにはどうすれば良いのでしょうか。

まず重要なのは、うろたえたり逃げたりしないこと。「たいていの問題はそこからがスタートだ」と腹をくくり、落ち着いて考え始めることです。

次に必要なのは、問題文を読み進め、ひとつひとつ検討を進めること。
一見しただけでは解決策のわからない課題も、解決のために必要な小さな課題に分解し、情報の関連性を検討しながら一つひとつ解決していくステップを順に踏めば、学習した内容の応用であることが明らかになることがほとんどなのですから。

読解力=「正しく誘導に乗る力」

上で述べた2つを心がければ大丈夫!と言いたいところですが、実は、共通テストの場合、ひとつ注意しなければならない点があります。それは、共通テストが記述ではなくマークシート式(選択式)の試験だということです。

記述式の試験であれば出題側は、「解決のために必要な小さな課題に分解し、一つひとつ解決していく」過程をすべて答案用紙に書くよう受験生に求めることができます。
でもマークシートではそれは不可能ですよね。出題者はどうするのでしょうか。

共通テストでは、出題者は受験生の代わりに「解決のために必要な小さな課題に分解し、一つひとつ解決していく」プロセスを進めます。
そしてその同じ道を受験生が通れるよう”ヒント”をあちこちに散りばめた形で問題文を作り、正答へと誘導していくのです。
このため、受験生にはこれらのヒント(情報)を的確に集めつつ、正しく誘導に乗り、最終的に出題者の意図した「課題解決」の形を見抜いて正答までたどりつく力が必要となります。

前年(2022年1月実施)の数学Ⅰ・Aの大問2〔1〕〔2〕やⅡ・Bの大問2〔2〕・大問4などは、図表や会話文から「そもそもの検討目的」「必要情報」「考察の方針」などを読み取り、誘導の流れに乗ることが正答の条件となりました。

また、Ⅰ・Aの大問5のように直前の問題の結論や検討内容を後半で活用する問題では、「その問題において何をしているのか」つまり「目的」を見失わないようにしつつ考察を進める必要があります。

数学で求められる読解力と探究の関係

正しく誘導に乗る力をつけるために

それでは、「正しく誘導に乗る力」をつけるためには、どのような学習をしていけば良いのでしょうか。中高での学習で気をつけたいポイントをいくつか挙げてみましょう。

■教科書の内容の深い理解

思考力を問うといわれる形にはなっているものの、まず前提として適切に公式やその導出、基本解法がしっかりと身についていることが重要です。簡単な例を挙げると「解の公式を覚えている」だけでなく「平方完成を使った解の公式の導出ができる」といった形ですね。

そのために、中学校の早い段階から「なぜそれが言えるか?」を意識した学習、単元ごとの関連性を意識した学習を行うことをおすすめします。「なぜ」がわかっていれば、教えられた知識や方法をアレンジして未経験の問題にも立ち向かうことができるからです。

公式であれば導出や証明を行ってから使用する良いですね。また基本的な解法は「解法を覚える」だけでなく「なぜそのような解法が有効か」「どのような条件のときにその解法が有効か」を言語化しながら身につけていくことが大切です。

「小学生にも自分が今学んでいる内容をゼロから嚙み砕いて説明できる」状態まで持って行くのが理想です。

■経験値を上げる

教科書や問題集で「一度間違えてから、解説を理解する」といった反復学習では、見たことのない問題を解く力を付けることは難しいと考えます。やはり、実際に初見の問題にあたり、試行錯誤しながら検討し、解決までの道筋を立てる経験を蓄積していくことが重要でしょう。

■日本語力をつける

問題文の誘導がどのような意図をもっていて、どのような方針で考察を進めようとしているかを読み取る日本語力を身につけておく必要があります。数学の教材であれば日本語の多く含まれる文章題、また科目を問わず文章を読み、スムーズに理解するトレーニングを積んでおくことが必要となるでしょう。

数学と探究プロセスの相互作用

探究学習は、(もちろんテーマにもよりますが)直接数学の力を高めるものではありません。
ただ、共通テストで出題される「日常生活や社会の事象を数理的に捉え」た問題は、まさしく探究的な視点で作られていますので、こうした問題に慣れることは、探究的なものの見方や学びの深め方を養うことにつながるでしょう。

また、「正しく誘導に乗る力」の前段階、すなわち、初めて見る問題に出会った時に「解決のために必要な小さな課題に分解し、情報の関連性を検討しながら一つひとつ解決していく」ことは、「探究のプロセス」①~③そのものでもあります。

ですから、その意味では、探究のプロセスに習熟しておくことは「文章量の多い」数学の問題を解く上でも役立つと言えると思います。

課題の設定 
体験活動などを通して、課題を設定し課題意識をもつ

情報の収集 
必要な情報を取り出したり収集したりする

整理・分析 
収集した情報を、整理したり分析したりして思考する

まとめ・表現 
気付きや発見、自分の考えなどをまとめ、判断し、表現する


今回のコラムでは、共通テストのうち「数学」で求められる「読解力」を「正しく誘導に乗る力」とし、その力を高める方法や「探究のプロセス」との共通点などについて述べてきました。

私が担当する次回のコラムは「正しく誘導に乗る力」実践編です。実際の共通テストの問題を使って、どこに誘導が隠れているのか、どうすればそれらを探せるのかなどを練習していきましょう

この記事は役に立ちましたか?

もし参考になりましたら、下記のボタンで教えてください。

杉本啓太

杉本啓太

家庭教師・株式会社ORA-Trio代表。東京大学卒業後、外資・日系コンサルティングファームに勤務しながら、家庭教師として活動。その後、プロ家庭教師として独立。学科指導だけでなく学習計画の策定や環境作り、生徒の性格面や親御様の関わり方など、抽象的課題の対策・解決を得意とする。2023年に家庭学習のコンサルティングを手掛ける株式会社ORA-Trioを設立。

関連記事