【共通テスト×探究③】「正しく誘導に乗る」を体験してみよう

「今さら聞けない」「今だからこそ聞きたい」探究をめぐる素朴な疑問のあれこれに一つひとつ向き合っていく連載、今回の特集では「探究って大学受験に役に立つの?」という素朴な疑問への答えを探していきます。

特集「共通テスト×探究」

第1回:一般選抜で大学受験するなら探究は無駄!は本当か

第2回:数学で求められる読解力ってどんな力?

第3回:「正しく誘導に乗る」を体験してみよう ←今回はここ

第4回:「教科書の内容を身に付ける」意外なメリットは


連載第2回の数学で求められる読解力ってどんな力?」では、大学入学共通テスト(以下、共通テスト)の「数学」(2023年1月実施、本試験)の出題内容を読み解き、ここで求められた読解力とはどのようなものかを探り、「探究のプロセス」との関係についても考えてきました。

その中でお伝えしたのは、共通テスト「数学」で求められる読解力とは、「ヒント(情報)を的確に集めつつ、正しく誘導に乗り、最終的に出題者の意図した課題解決の形を見抜いて正答までたどりつく力」であるということです。

今回は、実際の共通テストの問題を使って、「問題文のどこを読んだタイミングで何を読み取ればよいか」「どのような思考で誘導に乗っていけばよいのか」を対話形式でお伝えしてみようと思います。

問題文をどう読むか

不完全な情報から推測することは求められていない

以下は、2023年共通試験 数学Ⅰ・A大問2〔2〕(1)を、先生と生徒が会話しながら解いている場面です。ご自身が問題を読んだときに「どう考えるかな?」とイメージしながら読み進めてみてください。


先生:
まずは冒頭から問題文を読み進めていきましょう。

生徒: 
導入部分を読んだだけで「え、バスケ?」とめんくらいました。何をさせられるのか予想がつかないです。

先生: 
最初に読んだ時に『そんなことやったことない』と感じるのは、共通試験の出題の特徴ですね。でも、ひとつひとつ読み進めれば数学の授業や参考書で習った内容とつながってくるので安心してください。

まずは落ち着いて、考察内容(何を考えればいいのか?)を確認しましょう。

今回は、「シュートを打つ高さによってボールの軌道がどう変わるか」を考えるようですね。

生徒:
えーと、数学的にはどうやれば…

先生:
ちょっと待って。この時点ではまだ、「どうやるのか」はわからなくて大丈夫ですよ。

生徒:
え、大丈夫なんですか?

先生:
共通テストの場合、考察の道筋はこれから説明されるはずだから大丈夫です。まずは、参考図を見ながら日常的な話として「なるほど、そういうことがしたいのか」とイメージを持つようにしましょう。

下の図1も、まだ説明がされていないですから、この時点では見る必要はありませんよ。

生徒:
すみません、見ちゃってました。
図やグラフがあるとつい目を奪われて「なんだこれ?」と考え始めてしまいますね…。

先生:
気持ちはわかりますが、焦り過ぎずひとつひとつ読んでいくことが大切です。その時点の情報から推測するのは悪いことではありませんが、後ろに説明が書いてあることの推測に時間をかけてしまうのは時間の無駄遣いにもなりかねません。図や表についても、いきなり飛びついてあれこれ推測するのは、家電製品を使うのに、説明書を読まずに「どうするんだろう」と試行錯誤してしまうようなものですね。図の理解を進めるのは本文に「〇〇を表したものです」といった説明が出てきてからで十分です。

生徒:
なるほど!ちょっと気が楽になりました。

先生:
共通試験である以上、求められているのは「不完全な情報から推測すること」ではなく「説明を読み取ること」であるはず。つまり、説明はすべて書いてある。ここを強く意識しておきましょうね。

考えすぎず、でも流し読みもせず

先生:
では、次の問題文に進んでみましょう。

先生:
ここでようやく図1についての説明がありますね。ただ、この段階でも詳しいことはわからなくて大丈夫です。「左の参考図のような光景を真横から見た図である」という点が確認できれば問題ありません。

生徒:
「点Pが左図の背の高い人のボールの位置、点Hが背の低い人のボールの位置、A,B,Mあたりがリングのあたりかな?」とも考えたんですけど…

先生:
そのような予想もできれば、より良いですね。ただここでも――推測自体は悪いことではないのですが――無理して推測を進めたり時間を費やしたりするのは禁物です。あくまでこの段階では「予想」であり、確定するのは後の説明を読んでからにしましょう。問題文に「後の仮定を設定して」と書いてありますしね。

さらっと読み飛ばすのではなく「もしかして、こうかな?」と考えながらひとつひとつ読み進める姿勢

予想に固執したり焦ったりせず「説明をしっかり読んで確認しよう」と考える冷静さ

のバランスが大切だということです。

一つひとつ照らし合わせ、情報を統合しながら読む

先生:
問題文の「仮定」と書いてあるところに進みましょう。

生徒:
一気に情報が出てきて、ウッとなりますね…

先生:
この時に大切なのは、一気に読もうとせず、一つひとつ図1と照らし合わせ、情報を統合しながら読むことです。前述の「考えすぎず、でも流し読みもせず」と同様のイメージですね。

こんな感じで、1項目ずつ読み進めながら確認・理解を進めていきましょう。

生徒:
問題文と図1を行ったり来たりするのですね。

先生:
人によってどのような形が読みやすいかは違うので一概には言えませんが、1項目ずつ照らし合わせて「何のことを言っているか」を確認していくのがおすすめですね。

生徒:
⑥は自分でグラフを描くべきですか?

先生:
図1の中に書き込む形でも大丈夫ですよ。いずれにしても、問題文の中に「言葉の定義」が説明されている大切なポイントなので、図のどの値を指しているか、この時点でイメージは固めておきたいですね。

生徒:
ここでも、焦って問題を解き始めないのが大切ということですね。

問題をどう解くか

目標を問題文から読み取ることが鍵

先生:
ここまで読み解ければ、かなり「見慣れた数学の問題」に近い状態になっていると思います。
では、実際に問題を解いていきましょう。

先生:
放物線C1についての検討ですね。問題を読んだ時点でどんな前提条件があったでしょうか?

生徒:
先ほど確認した仮定③でM(4,3)を通るというのを確認しました。また、P0(0,3)を通ることも仮定④からわかります。

先生:
そうですね。その2つの情報とx2の係数が与えられているので、C1の方程式をaだけを使って表すことができます。

生徒:
たとえば、y=ax2+bx+c に点M,P0の座標を代入する、などで解けそうですね。

先生:
そうですね。また、ケ・コは「シュートの高さ」を問われています。これは、仮定⑥で言葉の定義をしっかり確認しておけば「前で求めたC1の頂点のy座標を聞かれているのだ」と読み替えることができます

生徒:
もしも最初に問題で与えられた仮定を図1と照らし合わせながら確認していなければ「シュートの高さってなんだ?」となってしまいそうです。

先生:
数学の問題としては「平方完成するだけ()」。でも、その目標を問題文から読み取れるかが勝負だったわけですね。

※頂点のx座標が2(点Mと点P0の真ん中)であることに気付くことができれば、平方完成も不要で、前の式にx=2を代入するのみで解くことが可能

「正しく誘導に乗る」力を分解すると

先生:
最後にサ、(1)の最後の問題です。

先生:
サの前を読むと「ボールが最も高くなるときの地上の位置の比較」という記述があります。

生徒:
これも、仮定⑥から「前で求めたC1、C2の頂点のx座標を比較すればよい」と読み替えることができますね。

先生:
その通りです。そうすると、その前のC2の方程式が平方完成された状態で与えられている理由もわかりますね。

生徒:
平方完成された状態であれば、すぐに頂点のx座標を求めることができるからですね。

先生:
そうですね。この点は、計算にかかる時間を抑え、その代わりに意図を理解する力を問う形の試験となっているポイントかなと思います。

生徒:
C1の頂点のx座標は2、C2の頂点のx座標は2-18p となります。Pは負の数なので、C2の頂点のx座標の方が大きくなります。つまり花子さんの「ボールが最も高くなるときの地上の位置」の方がMのx座標に近いので答えは②となります。

先生:
OKです。焦らず問題で与えられた「仮定」の部分を理解し、日本語の部分を数学の内容に読み替えることができれば問題文で与えられた式の意図も理解しやすくなりますね。それができれば、問題文の誘導にも乗りやすくなるでしょう。


数学Ⅰ・A大問2〔2〕(1)を題材に、実際に解く時にどのような確認をし、どのような思考をしながら読み進めていけばよいかの例を解説してきました。

日常的なテーマに数学の内容を活用する共通試験らしい問題では、複数の情報(日本語の問題文・図・表など)の読解、それらの情報を統合しての前提条件や設定の理解が重要であることがイメージできたでしょうか。

このような能力は、数学の問題のみから磨かれるものではありません。目的を設定し、必要な情報を集め、情報から問題解決に活用できる「意味」を抽出し、整理する。探究学習の機会も活用し、そのような取り組み・経験を十分に積んでおくことは、汎用的で骨太な思考力を身につけていくための糧となるでしょう。

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杉本啓太

杉本啓太

家庭教師・株式会社ORA-Trio代表。東京大学卒業後、外資・日系コンサルティングファームに勤務しながら、家庭教師として活動。その後、プロ家庭教師として独立。学科指導だけでなく学習計画の策定や環境作り、生徒の性格面や親御様の関わり方など、抽象的課題の対策・解決を得意とする。2023年に家庭学習のコンサルティングを手掛ける株式会社ORA-Trioを設立。

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