【フィードバックを考える④】教員だけのフィードバックに「物足りなさ」を感じていませんか?

生徒さんのやる気を引き出し、改善に向けて具体的な一歩を踏み出せるようにうながすフィードバックってどんなふうにすればいい?タイミングは?方法は?忙しい業務の合間にもできる?などのお悩みをお持ちの先生方にお役立ていただくため、さまざまな角度からフィードバックについて考えていく連載です。


探究学習ではフィードバックを行う場面が多く求められるようになります。そのためフィードバックがうまく行われているかどうかは、探究学習そのものの成否に直結する非常に大切なポイントとなります。今回は「フィードバック×ヒト・トキ・キマリ」というテーマで考えてみようと思います。

連載フィードバックを考える

第1回:小論文の添削、どうしてますか?
第2回:レポートや論文の添削、どうしてますか?
第3回:ハイペースなフィードバックは誰得?
第4回:教員だけのフィードバックに「物足りなさ」を感じていませんか?←今回はここ

今回のテーマである「フィードバック×ヒト・トキ・キマリ」はもう少し説明を加えないとよく分かりませんね。まず「ヒト」というのは「誰にフィードバックをしてもらうのか」、つまり「フィードバックの主体」に関わる内容です。次に「トキ」というのは「(フィードバックの主体に)いつフィードバックをしてもらうか」、つまり「フィードバックの時期」に関わる内容です。最後に「キマリ」というのは「(フィードバックの主体に、実際にフィードバックをしてもらう場合)どのようなフォーマットを使ってもらうのか」、つまり「フィードバックの形式」に関わる内容です。

これら主体・時期・形式をどのように組み合わせると適切なフィードバックになるかについて、それぞれ場合分けして考えてみたいと思います。

フィードバック×ヒト(主体は誰か?)

「教員以外」からのフィードバックが必要なわけ

フィードバックの主体として最初に考えられるのは「教員」です。教員はフィードバックの様々な場面に関わることになります。ただ、ここで考えたいのは「教員以外の主体」として他に誰がいるのかです。しかし、なぜ「教員以外の主体」について考える必要があるのでしょうか。

フィードバックを教員だけで実施し続けた場合、2つの問題に直面します。1つはフィードバックがマンネリ化してしまうこと、そしてもう1つは、フィードバックを行う際のフィルターの多様性に欠けることです。

前者は、いつも同じ教員がフィードバックを行うため、教員側も生徒側も悪い意味での慣れに繋がってしまう問題といえます。このとき、教員以外の主体がフィードバックを行うことで、新鮮さや良い意味での緊張感などプラスの刺激が得られます。

後者は、探究学習というものの本来の姿とも密接な問題です。探究学習は単一で画一的な答えではなく、多様なものの見方・考え方に基づいて個別最適な学びに向かっていくのが本来の姿といえます。それにもかかわらず、生徒の活動と関わっているのがいつも同じ一人の教員の場合、多様なものの見方・考え方でフィードバック・評価がなされない可能性があります。

いかにその教員が物事を様々な角度から捉えるように気をつけているとしても、個々人には好みのようなものがあります。そのため一人のフィードバック主体と相性が合わない活動については良いフィードバックや評価が得られないことがあり得ます。そのような事態を避け、探究学習本来の多様性を活かすためにも、多様なフィードバック主体は必要なのです。

「教員以外」にフィードバックを行う者としては、具体的には次のような主体が挙げられます。

  • 自分自身
  • 生徒同士
  • 外部の訪問者や専門家

以下ではこれらの主体ごとに、時期と形式をどのように組み合わせると適切なフィードバックになるかについて考えていきます。

「自分自身」に関する「フィードバック×ヒト・トキ・キマリ」

どんな時期に?

自分自身でのフィードバックは、毎回の探究学習や中間発表・最終発表など様々な時期に行うことが可能です。しかしどのような時期に行うかによって、フィードバックのためのボリュームを調整する必要があります。

毎回の探究学習でのフィードバックは、自分の進捗状況を細かくチェックでき、次の授業に向けた課題をイメージすることに繋げることができるメリットがあります。ただし、記入する項目や内容が多く求められると、生徒の重荷になっていき、モチベーションの低下を逆に引き起こしてしまうというデメリットもあり得ます。

中間発表や最終発表(成果物)に対する自分自身でのフィードバックは、具体的な形(途中段階の成果物、または最終的な成果物)になっている取り組みを俯瞰的に捉える重要な機会にできるというメリットがあります。

具体的な形(途中段階の成果物、または最終的な成果物)がどのような流れでできあがったかという「過程」を振り返る機会になることもメリットの一つです。さらに中間発表の場合、このフィードバックを受けて、この先、最終発表までの現実的なスケジュールを考えることに繋がります。

最終発表の場合は、今回の取り組みで解決できなかった内容、さらに広げたり掘り下げたりしたい内容など「今後の発展的な課題」について考えることに繋がります。こちらのフィードバックについては、区切りの時期の実施のため記入する項目や内容がある程度多くなっても問題ないと考えられます。

自分自身のフィードバックは、このように実施時期について柔軟に設定でき、また得られるメリットも多岐にわたりますが、決して万能ではありません。

例えば、自分に甘いタイプの生徒かどうかよって、フィードバックの質に大きな差が生まれるというデメリットがあります。自分にかなり甘いタイプの場合、内容が伴っていないにもかかわらず、ほとんどすべての項目を最高評価にしたり、問題点・改善点は一切ないと考えたりする可能性があります。逆に自分に厳しすぎる生徒の場合も、問題点・改善点は全てなどと考えてしまって、どこから次の作業を進めてよいか分からない状態に陥ったり、モチベーションや自己肯定感の低下を引き起こしたりというデメリットもあり得ます。

そのため自分自身のフィードバックは内容把握に対する細心の注意が求められ、気になる生徒については適宜カウンセリングをすることも必要だと思います。

自分自身のフィードバックについて、ここまでの内容をまとめると以下のようになります。

◎メリット
・自分の進捗状況を細かくチェックできる
・次の課題のイメージもしやすい
・成果物だけでなく取り組みの過程を俯瞰して捉えることができる
・今後のスケジュールの把握や今後の発展的な課題の認識ができる

▲デメリット
フィードバックの項目・内容の量は、実施時期とのバランスを考えないと逆効果になってしまう。
自分に甘いタイプの生徒または自分に厳しすぎる生徒の場合はフィードバックの効果がゼロ・マイナスの可能性がある。

★適切な時期
(項目・内容の量とのバランスが前提となるが)毎回の探究学習、中間発表、最終発表

どんな形式で?(そのまま使える書式あり)

自分自身のフィードバックは、時期として2つに分けることについてはで述べました。一つは中間発表や最終発表のようなある程度区切りとなる時期で、もう一つは、進捗状況を確認する毎回の探究学習の授業です。

まず前者のうち、中間発表については【資料1】の前半部分が自分自身のフィードバックに相当します。そして最終発表については【資料2】のような形が例として考えられます。

次に後者(進捗状況を確認する毎回の探究学習の授業)については【資料3】【資料4】のような形が例として考えられます。こちらは毎回の授業で記入するものなので、【資料2】のようなボリュームは求めず、コンスタントな把握を継続する狙いを持っています。

【資料1】 中間発表のフィードバック形式

【資料2】 最終発表のフィードバック形式(自分自身)

【資料3】 毎回の授業でのフィードバック形式①(自分自身)

【資料4】 毎回の授業でのフィードバック形式②(自分自身)

「生徒同士」に関する「フィードバック×ヒト・トキ・キマリ」

どんな時期に?

生徒同士でフィードバックを行うためには、お互いが相手に自分の活動をある程度説明できる段階になっている必要があります。そのため適切な時期として想定しやすいのは、「中間発表」や「最終発表」です。

発表する側の生徒は、コメント内容そのものから気づきを得られるメリットがあるのはもちろんのこと、多くの人からの反応を受け取ることができるので、モチベーションの維持・向上というメリットもあります。一方、コメントする側の生徒にとっては、他の生徒の取り組みについて考えることで、自分の取り組みを見直したり、他の生徒のアイデアを取り入れたりする絶好の機会となります。

もちろん普段の探究学習の場面でも生徒同士でのフィードバックは可能ですが、生徒によって進み具合に違いがあるため、タイムパフォーマンスとして有効ではない場合が少なくありません。またこのフィードバックを頻繁に行おうとすると、教員側の内容把握の量も膨大になり、教員の負担増が考えられます。

だからといって、内容把握を疎かにしてしまうと、生徒同士の世間話で終わってしまったり、粗雑なコメントの繰り返しになったりと、ほとんど成果が得られない可能性もあります。場合によっては、辛辣なコメントやふざけたコメントが放置されることによって、トラブル発生の原因になることもあるため、細心の注意が必要だと思います。

生徒同士のフィードバックについて、ここまでの内容をまとめると以下のようになります。

◎メリット
・多くの気づきが得られる
・モチベーションが上がる
・自分自身の振り返りになる
・他者の取り組みを参考にできる

▲デメリット
・頻度を高めると教員の負担が逆に増加する
・内容把握が不十分だと効果がゼロまたは異なるトラブルの原因となってしまう

★適切な時期
中間発表や最終発表 

どんな形式で?

生徒同士によるフィードバックは、中間発表や最終発表での相互評価の形式が考えられます。具体的な活動としては、互いの発表などを聞き、コメントを口頭で述べあったり、記入して交換しあったりします。【資料1】【資料5】は、中間発表と最終発表の例になります。

【資料5】 最終発表のフィードバック形式(生徒同士)

「外部の訪問者や専門家」に関する「フィードバック×ヒト・トキ・キマリ」

どんな時期に?

外部の訪問者や専門家のフィードバックは、自分自身・生徒同士・教員など普段関わりのある人間とは異なる主体によるものなので、それを受け取る生徒にとっては非常に貴重な機会となります。そのような「新鮮さ」自体がメリットになります。また普段関わりがない主体とのやり取りのため、「良い意味での緊張感」を得ることもできます。さらにそれが専門家によるもので、ポジティブなコメントを受け取った場合、自分の取り組みが認められたと思えるので、大きな自信やモチベーションの向上に繋がります。

一方デメリットとしては、外部の訪問者や専門家は生徒のレベルや普段の取り組み状況を十分に把握していないため、学校側が思い描いていたようなコメントが得られないことが考えられます。例えば、どの発表者や成果物に対しても、同じようなコメントが記入されたり、簡素なコメントで終わってしまったりするケースです。特に、学園祭で行われる発表会で来校した一般訪問者や、授業参観で来校した保護者など場合、その傾向が見られると思います。ここについては、コメントなど定性的な項目だけでなく、評価の段階(ABCや5~1)のような定量的な項目を設定するなどの工夫が必要になります。

また専門家の場合コメントが粗雑になることはないかもしれませんが、さきほど述べたようなポジティブなコメントではなく、専門的見地からの手厳しいコメントがなされる可能性も十分にあります。ただし、それは専門家からの指摘なので、教員の追加の解釈やフォローと上手く組み合わせていけば、生徒にとって探究学習をさらに細かく正確に進めていくための重要なアドバイスとして活かすことができます。この点については探究学習に限った話ではなく、専門家のようなゲストティーチャーに来てもらう場合、その方と担当教員との間での綿密な事前の打ち合わせも必要になります。

これはフィードバックそのもののデメリットではありませんが、今述べた事前の打ち合わせだけでなく、来てもらう方とのスケジュール調整の難しさも、外部の訪問者や専門家のフィードバックが持っている「構造上のデメリット」と言えます。ここには、保護者や一般訪問者、他校の教員などからのフィードバックを受け取る機会として、どの時期に授業参観、学園祭での発表会、教育研究会/公開授業などを実施するかという行事計画の難しさも含まれます。

外部の訪問者や専門家のフィードバックについて、ここまでの内容をまとめると以下のようになります。

◎メリット
・新鮮さや良い意味での緊張感を得ることができる
・大きな自信やモチベーションの向上に繋げられる

▲デメリット
・学校側が思い描いていないコメント(同じようなコメント、簡素すぎるコメント)になる可能性がある
・専門家のようなゲストティーチャーの場合は事前の綿密な打ち合わせが必要になる
・いつ実施するのかというスケジュール調整や行事計画の難しさが生まれる

★適切な時期
授業参観、学園祭での発表会、教育研究会/公開授業、ゲストティーチャーを呼ぶ特定の日

どんな形式で?

外部の訪問者や専門家によるフィードバックは、どんな立場の人がどんな行事でそれを行うかによって、形式は多岐に渡ります。専門家の場合には、個別の発表や成果物に対する細かいフィードバックになりにくいかもしれませんが、訪問日の最後の時間などに講評という形で話をしてもらう形も考えられます。

まず【資料6】は発表会で外部の専門家を招き、生徒のプレゼンに対してコメントしてもらったものです。この形式は専門家なので、コメントのみという定性的な項目だけでも成立していますが、一般訪問者などの場合は、思い描いたコメントが得られない可能性が高いと思います。

次に【資料7】も発表会などでのプレゼン評価ですが、こちらは専門家だけでなく一般訪問者であっても評価が成立しやすくなるように、定量的な項目をメインにして、定性的な項目であるコメントは補足の役割を持たせたものです。

最後に【資料8】は、発表会や教育研究会/公開授業などのポスターセッションに関わるフィードバックの形式です。こちらも資料7と同様に、専門家だけでなく一般訪問者であっても評価が成立しやすくなるように、定量的な項目をメインにして、定性的な項目であるコメントは補足の役割を持たせています。

【資料6】外部専門家のフィードバック形式(プレゼンの評価)

【資料7】外部訪問者のフィードバック形式(プレゼンの評価)

【資料8】外部訪問者のフィードバック形式(ポスターセッションの評価)

まとめ

ここまでの考察で、教員以外のフィードバック主体は様々であり、それぞれメリット・デメリットが異なっていて、適切な時期や形式にも違いがあることが分かりました。

そして、フィードバックはあくまでも探究学習そのものの質の向上を目指す手段です。

そのため或るフィードバックを活用しようとするとき、探究学習のファシリテーターである担当教員自身が、それを選択する目的・狙いは何であるのかについて、他の教員に対しても、生徒に対しても、外部の訪問者や専門家に対しても説明できる状態になっていることは非常に大切です(実際に細かく説明するかどうかは別として)。特に外部の専門家を招く場合には、その説明を事前の打ち合わせで済ませておくと、高い効果を得ることができます。

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斉藤健

斉藤健

自修館中等教育学校教諭として探究教育を先駆けて実践。早稲田大学系属早稲田渋谷シンガポール校、シンガポール日本人学校中等部など教諭を経て、現在ビエンチャン日本語補習授業校の教員、如水館バンコク高等部のオンライン講師、iU(情報経営イノベーション専門職大学)客員教授。主な著書に、探究型教材『FUTURE』小学生版、中学生版Vol.1・Vol.2・Vol.3:STEAMがある。スタディサプリ探究講座(興味研究ワークBOOK/課題発見ワークBOOK)の制作にも携わる。

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