探究学習ってどうして必要なんだろう?

❝探究❞ という言葉を聞くことが最近増えた気がする――そう感じている方は多いかもしれません。

それもそのはず、学習指導要領の改訂によって、2022年度から ❝探究❞ は高校の必修科目のひとつとなりました(「総合的な探究の時間」)。そしてこれにともない ――あるいは先立つ形で―― 多くの中高一貫校では中学の段階から ❝探究❞ の学びが始まっています。でも、

  探究ってそもそも何だろう?
  探究学習は今、どうなっているんだろう?
  探究って将来、どんな役に立つんだろう?

などの疑問をお持ちの方もまだまだ多いのではないでしょうか。

そんな皆さまの「今さら聞けない」「今だからこそ聞きたい」探究をめぐる素朴な疑問のあれこれに一つひとつ丁寧に向き合っていく連載をスタートします。

第1回となる今回は、どうして探究学習が必要と考えられるようになったのか、その背景を見ていきましょう。



そもそも学習指導要領が改訂される理由とは

学習指導要領(注1)の改訂にともなって高等学校で「総合的な探究の時間」が始まったと最初にお伝えしましたが、ここで早速素朴な疑問が湧いて来ませんか?そもそも学習指導要領はなぜ定期的に改訂される(注2)のでしょうか。

それは、日本の教育が「社会の形成者」の育成を目的のひとつとしている(注3)ためです。

「社会の形成者」となるためには、社会の成り立ちや仕組み、その可能性や課題などについて学び、これからの社会をどう変えていくべきか、その中で自分自身はどのように生きていくのかなどを考えていかなければなりません。しかしその対象である社会は時とともに変化していきます。社会の変化にあわせて、子どもたちの学びも変化していく必要がある――それが、学習指導要領が定期的に改訂される理由です。

社会が変わり、学びも変わる

これまでの社会とこれからの社会はどう違う?

今回の学習指導要領の改訂では、社会の変化をどのようにとらえているのでしょうか。また、そのような社会の変化をふまえ、子どもたちの学びをどのように変えて行く必要があるとしているのでしょうか。

まず、社会の変化については、中学校学習指導要領解説総則編(平成29 年7月)に次のような表現があります。

今の子供たちやこれから誕生する子供たちが,成人して社会で活躍する頃には,我が国は厳しい挑戦の時代を迎えていると予想される。生産年齢人口の減少,グローバル化の進展や絶え間ない技術革新等により,社会構造や雇用環境は大きく,また急速に変化しており,予測が困難な時代となっている。また,急激な少子高齢化が進む中で成熟社会を迎えた我が国にあっては,一人一人が持続可能な社会の担い手として,その多様性を原動力とし,質的な豊かさを伴った個人と社会の成長につながる新たな価値を生み出していくことが期待される。

「生産年齢人口の減少,グローバル化の進展や絶え間ない技術革新等により,社会構造や雇用環境は大きく,また急速に変化しており,予測が困難な時代となっている」とあります。社会の構造そのものが変化していて、しかもその変化の速度がとても速い。その結果、先を予測することが難しくなっていると書かれています。

これからの時代に求められる学びとは

では、「予測が困難な時代」に求められる学びとはどのようなものなのでしょうか。中央教育審議会答申(平成28 年12 月)には次のような表現がありました。

解き方があらかじめ定まった問題を効率的に解いたり定められた手続を効率的にこなしたりすることにとどまらず、直面する様々な変化を柔軟に受け止め、感性を豊かに働かせながら、どのような未来を創っていくのか、どのように社会や人生をよりよいものにしていくのかを考え主体的に学び続けて自ら能力を引き出し、自分なりに試行錯誤したり、多様な他者と協働したりして、新たな価値を生み出していくために必要な力を身に付け、子供たち一人一人が、予測できない変化に受け身で対処するのではなく、主体的に向き合って関わり合い、その過程を通して、自らの可能性を発揮し、よりよい社会と幸福な人生の創り手となっていけるようにすることが重要である。

少し意訳してみましょう。

これまでの社会では、教えられた知識や方法をそのまま使って対応することができました。そのため、学びは「教えられたことを正確に記憶し再現できるか」「より速く、効率的にこなせるか」に重点を置いてきました。つまり、これまでの社会は、教えられた知識・方法を使って無駄なく速く「処理」できれば成功できていたため、学びも「受動的・客体的」なものだったのです。

しかし、グローバル化や情報化といった劇的な社会の変化によって、これまで通りのやり方では成功できなくなってきました。これからの社会は予測困難で、未知の領域もたくさんあります。したがって、教えられた知識や方法をそのまま使っても対応できないことが増えます。そのため、学びは「教えられて終わり」ではなく、「教えられたものを材料にしてどれだけ工夫・発展させていくか」という「能動的・主体的」なものにしていかねばなりません。

つまり、これからの世の中は、教えられた知識・方法をアレンジしながら未経験の分野・新しい分野で「試行錯誤」しなければ成功できない社会なのです。

主体的な学びと創意工夫・試行錯誤のトレーニング

今、教育には、このような社会の変化に対応できる人材の育成が求められています。

特に、義務教育 と社会人とが重なり合う部分に位置する高校生には、

  • 「教えられたものを材料にしてどれだけ工夫・発展させていくか」という「能動的・主体的」な姿勢を身につけ、
  • 教えられた知識・方法をアレンジしながら未経験の分野・新しい分野で「試行錯誤」する

このような力を早急につけることが期待されています。

「総合的な探究の時間」は、このような「能動的・主体的な学び」を通じて「試行錯誤・対応」する学びの場として作られました。

学習指導要領解説の第 3 章では、「第 1 目標」(1)「探究の意義や価値を理解するようにする」について、「探究はよいものだというようなことを…観念的に説明できるようになることを目指すものではない」、「総合的な探究の時間だけではなく、様々な場面で生徒自らが探究を自律的に進めるようになることが、その意義や価値を理解した証となる」、「身につけた知識及び技能や思考力、判断力、表現力等が総合的に活用、発揮されることが、探究の意義や価値でもある」と説明されています(注4)。

ここから、過去に経験したことのある特定の領域だけに使われるような資質・能力(知識・技能・思考力・判断力・表現力等)ではなく、これから目の前に現れる未知の領域に対して、幅広く活用できる資質・能力を備えた人間になることが総合的な探究の時間の目標となっていることが分かります。

「総合的な探究の時間」における「探究学習」という活動は、新たに生じている社会の変化に対応できる人材として育つための「主体的に学ぶ機会」で、そこでは「創意工夫・試行錯誤のトレーニング」が行われることになります。

もっと知りたい方へ(注記と参考資料)

  • (注1)「学習指導要領」とは、全国どこの学校でも一定の水準が保てるよう、文部科学省が定めている教育課程(カリキュラム)の基準です。子供たちの教科書や時間割は、これを基に作られています。より詳しくは、文部科学省ホームページ「学習指導要領とは?」をお読みください。
  • (注2)学習指導要領は、基本的に 10 年に 1 度、改訂されています。
  • (注3)教育基本法第1条(教育の目的) には「教育は、人格の完成をめざし、平和的な国家及び社会の形成者として、真理と正義を愛し、個人の価値をたつとび、勤労と責任を重んじ、自主的精神に充ちた心身ともに健康な国民の育成を期して行われなければならない。」とあります。より詳しくは、文部科学省ホームページ「教育基本法ってどんな法律?」をお読みください。
  • (注4)出典:文部科学省「高等学校学習指導要領(平成30年告示)解説 総合的な探究の時間編 平成30年7月」

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斉藤健

斉藤健

自修館中等教育学校教諭として探究教育を先駆けて実践。早稲田大学系属早稲田渋谷シンガポール校、シンガポール日本人学校中等部など教諭を経て、現在ビエンチャン日本語補習授業校の教員、如水館バンコク高等部のオンライン講師、iU(情報経営イノベーション専門職大学)客員教授。主な著書に、探究型教材『FUTURE』小学生版、中学生版Vol.1・Vol.2・Vol.3:STEAMがある。スタディサプリ探究講座(興味研究ワークBOOK/課題発見ワークBOOK)の制作にも携わる。

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