【フィードバックを考える⑤】フィードバック=リアクションにあらず!

生徒さんのやる気を引き出し、改善に向けて具体的な一歩を踏み出せるようにうながすフィードバックってどんなふうにすればいい?タイミングは?方法は?忙しい業務の合間にもできる?などのお悩みをお持ちの先生方にお役立ていただくため、さまざまな角度からフィードバックについて考えていく連載です。


探究学習で行われるフィードバックには、教員によるもの、自分自身によるもの、生徒同士によるもの、外部の訪問者や専門家によるものなど、多様な形があります。それらはいずれも誰かの発言・発表などを受けてコメントするようなものなので、一見「リアクション」のように思えます。

しかしその中身を詳しく見つめてみると、フィードバックという活動が持っている異なる側面に気づくことができます。今回は「フィードバック×もう一つの重要な役割」というテーマで考えてみようと思います。

連載フィードバックを考える

第1回:小論文の添削、どうしてますか?
第2回:レポートや論文の添削、どうしてますか?
第3回:ハイペースなフィードバックは誰得?
第4回:教員だけのフィードバックに「物足りなさ」を感じていませんか?

第5回:フィードバック=リアクションにあらず? ←今回はここ

リアクションからアクションへ

「フィードバック」という言葉の辞書的な意味を調べてみると、「目標や目的に向かうために起こした行動について間違っている点や改善の余地がある点を伝えることによって確実性を高めることのことを意味する表現。ひとことで言えば、結果の情報を原因側に戻すこと。」などと書かれています。端的に言えば「反応」、つまり「リアクション」のことですね。

確かにフィードバックを「コメント・評価を発表者に返す行為」ととらえるならば、それは単なる「リアクション」となります。しかし、生徒同士で行うフィードバックの場合、フィードバックが持つもう一つの重要な役割について意識づけしたり、その役割を焦点化させたりする働きかけを教員が行えばフィードバックを受動的な「リアクション」から、能動的で主体的な「アクション」に変えることができるのです。

フィードバックは “4つのプロセス” の疑似体験

そこで意識づけのために、フィードバックの持っている重要な役割がどんなものであるのか注目してみましょう。

フィードバック(中間報告や最終発表に対するフィードバック)において聞き手は、探究学習を進めた発表者が実際に取り組んだ内容を、発表者の立場になってイメージする時間を過ごしています。探究学習は「課題の設定」「情報の収集」「整理・分析」「まとめ・表現」という4つのプロセスを通じて、あるテーマについての学びを広げたり深めたりしていくものです。そのためフィードバックを行うとき、発表の聞き手は発表者が経験した4つのプロセスをイメージしながらコメントなどを考えることになります。それはいわば「4つのプロセスの疑似体験」なのです。

つまりフィードバックは、誰かの探究学習の成果について単にコメントを返すという「リアクション」ではなく、発表を聞きコメントを考えるという短い時間の中で4つのプロセスを疑似体験「させられる」もので、実は独立した一つの探究学習になっているため、フィードバックそれ自体が「アクション」なのです。そして、自分自身で行うフィードバックも、過去の自分を一他者と捉えると、自分のテーマではあるのですが4つのプロセスをもう一度確認していることになり、これも疑似体験の一側面なのです。

実際に発表を聞いているときに行われている活動をイメージしてみると、4つのプロセスの疑似体験は次のように行われています。

まず「発表者のテーマを聞き、コメント用紙に記入する」という活動では【課題の設定】について考える状態になります。次に「発表内容の前半(調べたきっかけなど)」を聞いているときも【課題の設定】について考えています。そして、「実際にどのように調査活動を進めたかについての印象などを評価したり、コメントに書いたりする」部分では、自分ならばどんな調査方法を選択するかであったり、このテーマで自分が探究学習を進めるならば他にもっと適切な調査方法があるのではないかであったりと、自分に置き換えながら【情報の収集】の妥当性について考える状態になります。さらに「調べた資料、集めたアンケート結果などを元にどんなことに気づいたか、それをどんな図表を使って考えているかについて評価したり、コメントに書いたりする」という部分では、集めた情報をどのような分析方法を使って考えるとより分かりやすくなるかなど、効果的な【整理・分析】について考えることになります。最後に「スライドの構成、文字や色使い、根拠に用いている資料やデータなどに説得力や分かりやすさなどはあるかなどについて評価したりコメントに書いたりする」という部分では、自分ならばこのテーマで具体的にどのようなスライドやポスターにしていくかなど、【まとめ・表現】について考えることになります。

「良かった」「悪かった」で終わらせないために

ただ、このようにフィードバックが持っている役割を意識づけできたとしても、発表を聞きコメントや評価を行う時間が少なければ、4つのプロセスを十分に疑似体験することはできません。その状態でフィードバックを繰り返していると、見た目に分かりやすくコメントしやすい、ポスターやスライドなどに対する「まとめ・表現」のプロセスに対するコメントが集中したり、4つのプロセスそれぞれにコメントが書かれたとしても、単に良かった悪かったという短文で終わってしまったりして、十分な成果は得られません。

そこで「意識づけ」に加え、教員による「焦点化」が大切になります。

それぞれの発表者のフィードバックで4プロセス全てを疑似体験できるのが理想ではありますが、現実としてフィードバックのためコメント・評価を考えたり記入したりするのに割くことのできる時間は限られています。その限られた時間の中で効果的に疑似体験をするため、毎回4つのプロセスのコメントを必ず書いてもらうのではなく、例えば「今日の発表を聞いてフィードバックするときのターゲットは整理・分析にしたいと思います。だから整理・分析のコメントは全員しっかり書こう。」というように、最初に教員が1つのプロセスに狙いを定め、生徒の関心を集中させます。こうすることで、その日に「焦点化」させたプロセスに対する疑似体験の度合いを高めるのです。

疑似体験を繰り返すことによって得られる効果 
~1000本ノック~

総合的な探究の時間で行われる探究学習は、たいていの場合、1年間かけて1つのテーマの理解を深める形になっています。その1年間の探究活動を通じて生徒は4つのプロセスを経験するわけですが、4つのプロセスに「取り組んだことがある」のは間違いないものの、将来的に何かを考察しようとするときにこの4つのプロセスを活用するレベルにはなっていません。

探究学習が本来目指している4つのプロセスを習得・活用のレベルというのは、日常のあらゆる事象に対して、ニュートラルな形で4つのプロセスが活かされている状態です。そのように4つのプロセスを当たり前のように活用できるためには、何より「場数」が大切になります。そのように考えると、1年間・1テーマでの4プロセス体験は少なすぎるわけです。

もちろん、日々の探究学習の中を細かく見てみると、そこには情報の収集や整理・分析と捉えられる活動がないわけではありませんが、探究学習のスケジュールは1年間を4つの時期に分けて、最初に「テーマを考える時期(課題の設定)」、次に「アンケート・インタビュー・フィールドワークを行う時期(情報の収集)」、そのあと「集まった情報から分かることを可視化する時期(整理・分析)」、そして1年間の最後に「成果を発表・プレゼンする時期(まとめ・表現)」となっていることが多く、それぞれのプロセスと関わる時間は特定の時期にまとまっています。そのため、4つのプロセスをコンスタントに活用している経験にはなっていません。それは1年の途中に中間発表があったとしても、それぞれのプロセスを2回ずつ経験している形に留まります。

そのような現状の課題を克服するために、1年間で3つや4つのテーマを考える形にすれば、その分だけ4つのプロセスを活用する機会は増えます。しかし生徒たちは総合的な探究の時間以外にも、教科学習や行事、委員会活動、部活動などたくさんの活動と関わっています。そのためテーマを増やしたとしても、それに十分に取り組む時間が確保できません。

そこで場数を増やすためには、生徒同士のフィードバックを活用することが有効なのです。4つのプロセスについて頭を使うという反復練習によって場数を踏むことができれば、安定して4つのプロセスを用いることができる状態に向かっていきます。

生徒同士でフィードバックを行う機会として考えられるのは、グループ内での進捗状況の報告、中間報告、最終発表などがあります。特に、中間報告や最終発表はかなりの人数が発表を行うため、フィードバックを行う側(聞き手)は短時間でたくさんの発表者の話を聞き、コメントを考えることになりますが、その短時間で「4つのプロセスの疑似体験」を何度もします。それは例えるならば「4つのプロセスの1000本ノックです。

実際のフィードバックで
4つのプロセスを明確にするための工夫 

フィードバックを4つのプロセスの疑似体験として正しく活かすためには、生徒同士のフィードバックの際に使う評価・コメント用紙の構成にも工夫が必要となります。

フィードバックの評価・コメント欄を一つしか設けない場合、最も印象に残りやすくコメントを考えやすい「まとめ・表現」のプロセスだけを考えて終わってしまう可能性が高まってしまいます。そこで、評価・コメント欄をあらかじめ4つのプロセスそれぞれで分けておくと、フィードバックを行う聞き手の生徒は、自分が今どのプロセスについて考えているのかイメージできるようになります。

また、例えば
【1】自分の発表や調べに活かせそうだと思ったこと
【2】こうしたらもっと良くなるというアドバイス
というように、各項目のコメント欄の性質・方向性を分けておくことも大切です。

このようにコメント欄の性質・方向性が明確になっていると、コメントが良い悪いというような表面的な言葉で終わってしまうのを避けることができ、フィードバックが能動的かつ主体的な探究活動になります

 これらの工夫に基づいた評価・コメント用紙の一例を文末に添付しておきましたので、ご参照ください。

まとめ

このように1年間の探究活動で向き合うメインのテーマが1つのローペースでは、4つのプロセスの活用機会・活用経験が少なすぎるという課題があります。そしてそれを克服するためには、生徒同士によるフォードバックの機会が有効です。しかし単にフィードバックの回数を増やすだけでは、4つのプロセスの活用機会・活用経験は質的な部分が疎かになってしまいます。

そこでフィードバックというものを、受動的な活動から能動的で主体的な「探究活動」に変えるために、フィードバックが持っている重要な役割を「意識づけ」しながら、同時に4つのプロセスのいずれかに「焦点化」させる教員の働きかけが大切になってきます。


こうしてたくさんの疑似体験を繰り返した結果、4つのプロセスに対する理解度が増し、自分自身の探究学習の質を高めることにも繋がっていきます。

【資料】 最終発表のフィードバック形式(生徒同士)

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斉藤健

斉藤健

自修館中等教育学校教諭として探究教育を先駆けて実践。早稲田大学系属早稲田渋谷シンガポール校、シンガポール日本人学校中等部など教諭を経て、現在ビエンチャン日本語補習授業校の教員、如水館バンコク高等部のオンライン講師、iU(情報経営イノベーション専門職大学)客員教授。主な著書に、探究型教材『FUTURE』小学生版、中学生版Vol.1・Vol.2・Vol.3:STEAMがある。スタディサプリ探究講座(興味研究ワークBOOK/課題発見ワークBOOK)の制作にも携わる。

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