「今さら聞けない」「今だからこそ聞きたい」探究をめぐる素朴な疑問のあれこれに一つひとつ向き合っていく連載、今回の特集では「探究って大学受験に役に立つの?」という素朴な疑問への答えを探していきます。
特集「共通テスト×探究」
第1回:一般選抜で大学受験するなら探究は無駄!は本当か
第2回:数学で求められる読解力ってどんな力?
第3回:「正しく誘導に乗る」を体験してみよう
第4回:「教科書の内容を身に付ける」意外なメリットは ←今回はここ
連載の第2回・第3回では、大学入学共通テスト(以下、共通テスト)の「数学」(2023年1月実施、本試験)の出題内容を読み解いてきました。
今回は、同じ共通テストの物理と化学の出題内容を読み解きながら、求められている力はどのようなものか、そして探究とはどのような関係があるのかを考えていきましょう。
目次
2023共通テスト物理・化学の特徴
2023年1月に実施された大学入学共通テスト(以下、共通テスト)の本試験では、物理・化学のいずれも、センター試験と比較すると次のような特徴がみられる問題となっていました。
- 教科書の内容や公式の暗記・当てはめだけでは対応が難しい
- 思考力が問われる
想定通りにいかない実験が描かれた
では、「教科書の内容や公式の暗記・当てはめだけでは対応が難しい」とはどのような出題なのでしょうか?
もう少し踏み込んで検討してみましょう。
「物理」では、大問1~4のうち、1・2・4の3問、つまり、全体の4分の3で実験が出題されました。そして、その3問のうち2問で「実験をしたら、事前の想定とは異なる結果が出てしまった」状況が描かれていました。
大問2 (問3) | 考察と実態の差異 | 「予想していた結果と異なると 判断できるのはなぜか」 |
大問4 (問4,5) | 前提知識から想定する 実験結果にならない 理由 | 「なかなか0にならないですね」 「最初の方法で私たちが求めた 電気容量は正しい値より…」 |
確かに、実際の実験では「習った理論から実験結果を予想する⇒想定通りの結果が出る」といったシンプルな手順で終わることは少ないですので、より現実に近い状況が出題されているといえるでしょう。
とはいえ、授業や教科書で習ったこととは違う…!とあせってしまいそうな出題ですので、落ち着いて、粘り強く検討を重ねる姿勢と能力が問われていると言えそうですね。
化学では見慣れないテーマを出題
化学では、第5問の問3で、実験そのものが普段の教科書では見慣れないテーマを扱っている出題がなされました。
問題文を丁寧に読みながら式を立てていけば難易度は高くないのですが、見慣れない内容でも落ち着いて取り組めること、そして、テストの場で問題と自身の知識・学習内容を結び付けて誘導に乗る力が問われる問題でした。
中高での学習で気をつけたいポイント
それでは、想定通りにいかない実験や見慣れないテーマでの実験など、「教科書の内容や公式の暗記・当てはめだけでは対応が難しい」問題を解くためには、どうすれば良いのでしょうか。
中学・高校での学習で気をつけたいポイントをいくつか挙げてみましょう。
教科書レベルの理解に自信を持とう
数学の回でもお話ししましたが、どの科目でも、まずは教科書レベルでの知識や解法をしっかりと身につけておくことが大切です。
「しっかりと」身に付けておくことには大きなメリットがあります。
なぜなら「教科書の内容を十分に理解している」という自信や自負があれば、「知識面で自分が足りていないことはないはず⇒あとは求められているのはこの場での思考だけだ」という形で、テストの場での思考に集中することができるからです。
逆に言えば、知識について自信がないと、問題を見て悩んだときに「これは自分の知識不足が原因なのか、この場で考えればできる問題なのか、どちらなのだろう・・・」という迷いが生じてしまいます。
そして、そのような迷いがあることで、本当は解けるはずの問題なのに十分な考察ができず、落としてしまうことがとても多いのです。
見慣れない問題に出会った時にも思考力を十分に発揮できるようにするには:
教科書レベルの知識を「十分に」身につけておこう
「知識面では不安はない」と自信を持てる状態まで到達しよう
「うまくいかない」を経験しよう
共通テストでは、実験をテーマにした問題が多く出題されています。
そして、その出題内容は、教科書に書いてあるものよりも「実際の状況に即した」ものとなっているのが特徴です。
実際の実験では「結果を予想する⇒その通りの結果が出る」のように、”最初からきれいな結果が出て十分な考察ができる”ことは多くありません。
実験の手順に不備があったり、予測の前提となる理論を間違えていたり、あるいは、そもそも考察したい内容と実験内容が合っていないという可能性もあります。
ですから、研究や探究では、むしろ、想定とは異なる結果が出てからが本番と言えます。
つまり、「なぜそのような結果となったか」「より目的に合う実験にするにはどのような点を改善したらよいか」を検討するプロセス、そして再度実験を行うというサイクルを回し始めるところがスタートなのです。
言われた実験手順をこなし、その数値を確認するだけではなく、目的設定・方法の検討・実施・考察を繰り返しながら検証を進めることで、実際の現象と教科書の中の理論を結び付け、理解を深めていく――そういった経験を積んでおくことはとても大切です。
そしてこれは理科の実験に限った話ではありません。
探究で”失敗”のとらえかたが変わる
共通テストで”失敗”が描かれる理由
探究などの情報収集・考察をともなう学習では、
必要な情報の洗い出し・情報収集方法の検討
→ 実際の情報収集
→ 分析・考察
のような進め方をしますが、この時、最初に集めた情報だけで目的の達成や課題の解決ができることはほとんどありません。
実際には
・別の方法での情報収集が必要になる
・仮説の裏付けに必要な情報が見えてくる
などの結果、追加のリサーチを行うことがほとんどです。
これは決して悪いことではなく、むしろ目的に向かって考察が進んでいる証拠です(だからこそ、共通テストでもこうした”失敗”の場面が描かれるのです)が、こうした経験がない(あるいは少ない)人は、「予定通り/想定通りに進まない」=「悪いこと」というイメージでとらえてしまいがちです。
そうした思考から抜け出せない場合、共通テストで「実験で想定通りの結果が出なかった」という文言を見た時にも尻込みしてしまうかもしれません。
失敗は想定の範囲内、と思えるように
探究における「情報の収集」は、理科では「実験の実施」にあたります。
情報収集/考察のサイクルを回す体験を積み、実験の結果が想定通りでないことは「失敗」ではなく「想定されたプロセスの一部」であるという認識を持っていることは、今回のような問題に出会った時にも抵抗を減らす上で大いに役立つでしょう。
この意味で、探究のプロセスに習熟しておくことは、共通テストの物理や化学の問題を解く上でも役立つと言えると私は思うのです。
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