これからは探究的な学びが重要と言われ、探究学習が高校で必修となり、ここ数年で「探究」という言葉はすっかりメジャーになりました。でも実のところ探究ってどういうことなのかよくわからなかったり、なんとなくわかる気がするけど他の人に説明はできないな…という方も多いのではないでしょうか。
そこで今回は、探究学習とはどのようなものなのか?を「社会科の素材」を使って考えてみたいと思います。(なお、ここでいう社会科の素材を使うとは、社会科で出てくる話の構造(システム)に当てはめて考えるということです)
利用価値があるもの=商品ができるまで
社会科の学習では、経済分野で「産業構造」という話が出てきます。
産業構造は大まかに分けると、「第一次産業」「第二次産業」「第三次産業」になります。
第一次産業は、農・林・水産業など、第二次産業は製造・加工・建築業など、第三次産業は卸売・小売・サービス業などが該当します。
この3つの産業の特徴を文章で表現すると、次のようになります。
- 第一次産業 … 自然界から利用価値のあるものを手に入れる活動
- 第二次産業 … 手に入れたものに人間が手を加えて利用価値を高めた別のものにする活動
- 第三次産業 … それら利用価値があるものを作った側と買う側との間をつなぐ便利さによって利用価値をさらに高める活動
利用価値のあるものは、(自給自足でなければ)自分以外の誰かに売って代金を受け取ることになりますので、「商品」と表現することもできます。
では、情報をひとつの「商品」ととらえて探究学習のプロセスとはどのようなものなのかを説明すると、どのようになるでしょうか。
情報をひとつの「商品」ととらえると
探究学習のプロセスの一つである「情報の収集」は、文献・インターネット・インタビューなど色々な場所から情報を手に入れる活動です。情報を一つの「商品」と考えると、このプロセスは情報に関わる【第一次産業】と捉えることができます。
①課題の設定
課題を設定し課題意識をもつ
②情報の収集
必要な情報を取り出したり収集したりする
③整理・分析
収集した情報を、整理したり分析したりして思考する
④まとめ・表現
気付きや発見、自分の考えなどをまとめ、判断し、表現する
次に、探究学習では集めた複数の情報を組み合わせたり、情報の中にある一部分の要素を取り出して注目したりすることで、それまでバラバラだった個々の情報からは見えてこなかった別の角度の情報を作り出すことができます。これが「整理・分析」というプロセスです。
ここでは情報の加工や組み立てが行われ、情報の価値が高められたり、新しい価値が付加されたりしているので、このプロセスは情報に関わる【第二次産業】と捉えることができます。
探究学習では、こうして整理・分析で分かってきたことを、他の人に分かりやすく・伝わりやすくする工夫が求められます。これが「まとめ・表現」のプロセスです。
この工夫は、情報の送り手と情報の受け手を適切に繋ぐことを実現し、いわば卸売や小売のような役割になっているので、このプロセスは情報に関わる【第三次産業】と捉えることができます。
探究=情報に関わる様々な価値を生み出す活動の集合体
探究のプロセスではもう一つ「課題の設定」が残っていますので、こちらも産業構造の例を使って説明してみましょう。
第一次・第二次・第三次のどの産業に携わるとしても、どのような地域を拠点として活動するかは重要です。
例えば漁業をしようと考えているのに、山の上に住んでいては、不都合です。そこで、日本国憲法第22条では、「職業選択の自由」と合わせて「居住・移転の自由」が定められています。
どこに住んでどんな仕事を始めるかという話は、探究学習の場合、どこにある、どんな情報を集めることから始めるかという情報収集の狙い(方向性)に関わってきます。これが「課題の設定」であり、このプロセスは情報に関わる【前提・土台づくり】と捉えることができます。
このように、探究とは「情報に関わる様々な価値」を生み出す活動の集合体、または「情報に関わる様々な価値」を「商品」と捉えた場合に登場する経済的な活動をまとめたものと考えることができます。
参考 ~もっと知りたい方へ~
探究をするということは、世の中に新たな価値ある情報を生み出すということ。その面白さと具体的な方法を大学で通用するレベルで、しかもわかりやすく書いてあるのが、上野千鶴子「情報生産者になる」(ちくま新書、2018年)です。この本には、いわば続編として実際に上野ゼミで学んだ卒業生が書いた「情報生産者になってみた ─上野千鶴子に極意を学ぶ」(ちくま新書、2021年)もありますので、ご興味のあるかたはぜひ手に取ってみてください。
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