南蛮お菓子のおかしな位置づけ

「南蛮文化」「南蛮由来」と聞いた時、どんなものをイメージするだろうか。鉄砲、地球儀、時計、メガネ、オルガン、ヴィオラ、カルタ、タバコ、金平糖、油絵――さまざまなものがあるが、その中でも長崎の地と強い結びつきを持っているのが南蛮菓子の代表格「カステラ」だろう。

伝来と表記の関係

ポルトガルからやってきたカステラ

カステラは室町末期にポルトガル人によって長崎に伝えられたとされている。ポルトガルには昔からパン・デ・ロー(pão de ló)と呼ばれる焼き菓子があり、それがカステラの原型に近い。

また名称の「カステラ」は漢字では加須底羅または家主貞良と表記され「かすていら」と呼ばれていたようだ。それはイベリア半島西部のポルトガル王国とは別にイベリア半島中部にあったカスティーリャ王国のパン(またはお菓子)を意味する「pão de Castela/Castilla(パン・デ・カスティーリャ)」のポルトガル語発音に由来するらしい。

カスティーリャ王国は1479年にイベリア半島東部のアラゴン王国と統合(同君連合を形成)し、スペイン王国になっていて、このスペイン王国とポルトガル王国は王族の婚姻関係を結ぶ風習があり、ポルトガル宮廷料理人が書いたレシピ本『料理法』の中にカステラと同じ製法のお菓子の記述があったようで、両国の食文化の交流が名称の由来にも関係していると考えられる。

カステラの表記があいまいになったワケ

こうして西洋から伝来したカステラだが、時々「かすてら」と平仮名表記されることがある。

マリトッツォ、モンブラン、ティラミスなど西洋のお菓子はカタカナ表記されるのが一般的で、これらの平仮名表記は見かけない。しかしカステラはカタカナ表記も平仮名表記も同じくらい見かける。

この違いは日本に伝わってきたタイミングが影響している。一般的に和菓子は漢字または平仮名表記、洋菓子はカタカナ表記であるが、この和菓子と洋菓子の区別は、明治になってから伝わったかどうかで考えられている。

そして明治以前に伝わった「カステラ/かすてら」は、西洋からもたらされた異国のお菓子という歴史的事実を背負いながら、和菓子・洋菓子の区別が生まれた時期には既に日本に伝わっていたため、便宜上、和菓子の一つになっているのである。だから明治を基準にした和菓子の概念で捉えれば「かすてら」となる。

しかし日本発祥のお菓子かどうかを基準とした和菓子の概念で捉えれば、それに該当しない点から「カステラ」となるのだろう。

つまり「カステラ/かすてら」は、「洋菓子ではないが南蛮菓子である和菓子」という「おかしなお菓子」なのである。

カステラの表記で探究してみた

では、現代ではカステラの表記はカタカナとひらがなでどのように使い分けられているのだろうか?

私が頻繁に利用するセブンイレブンではこれまでに4種類の「カステラ/かすてら」の存在を確認している。以下がその4つだ。

  • しっとり上品な味わいカステラ
  • スプーンで食べるふわふわかすてら
  • ふんわり玉子の風味がかおるしっとりかすていら
  • バターカステラ

似たような商品があるとそれを比較してみるとどうなるだろうかと考えてしまう、私のいつもの癖が発動した。おなじみの探究の4つのプロセス(下記)で言えば、【情報の収集】から【課題の設定】に入るパターンだ。

課題の設定 
課題を設定し課題意識をもつ

情報の収集 
必要な情報を取り出したり収集したりする

整理・分析 
収集した情報を、整理したり分析したりして思考する

まとめ・表現 
気付きや発見、自分の考えなどをまとめ、判断し、表現する

上に挙げた4種類の「カステラ/かすてら」にドトールの商品を加え、今回はベン図で考えてみることにした【整理・分析】

ベン図から分かるのは――もちろんサンプルが少ないので通俗的帰納法に過ぎないが――カタカナ表記は文字のカクカクとした力強さやインパクトが感じられ、「カステラ」が主役になっているということだ。言うなれば「only one」との印象ある。

これに対して平仮名表記は、文字に柔らかさがあるため、他の言葉の「しっとり」や「ふわふわ」と自然に混ざり合い、全体が作り出す〝優しさ” を構成する部分であり、協調性を感じる。言うなれば「one of them」との印象を受ける。

カステラは、明治以来の区分にのっとって「チーム和菓子」の一員と考えるならば、「和を以て貴しと為す」の精神に根差した後者の表記がふさわしいのかもしれない。

しかし、純粋に日本発祥でないことで、実際には「チーム和菓子」の一員と見做されていないことに対する反発の気持ちから、アウトローにカタカナとして自己主張したくなるのも分からなくもない。

そこには「カステラ/かすてら」にしか分からない複雑な心境があるのだろう。これは国籍などのアイデンティティの問題とパラレルな関係ではないだろうか【まとめ・表現】。食問答はこれからも続く。

参考 ~さらに考えを深めたい方へ~

今回の考察によって、文字の形によって印象が変わること、その印象を活用して商品のロゴが考えられていることが明らかになった。ここから、学問の一例として「デザイン学」、仕事の一例として「パッケージデザイナー」などが連想される。

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斉藤健

斉藤健

自修館中等教育学校教諭として探究教育を先駆けて実践。早稲田大学系属早稲田渋谷シンガポール校、シンガポール日本人学校中等部など教諭を経て、現在ビエンチャン日本語補習授業校の教員、如水館バンコク高等部のオンライン講師、iU(情報経営イノベーション専門職大学)客員教授。主な著書に、探究型教材『FUTURE』小学生版、中学生版Vol.1・Vol.2・Vol.3:STEAMがある。スタディサプリ探究講座(興味研究ワークBOOK/課題発見ワークBOOK)の制作にも携わる。

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