【かえつ有明の探究をひもとく①】「安心・安全」あってこその探究

サイエンス科・プロジェクト科という独自科目をベースにオリジナルの探究教育で生徒さんを大きく伸ばすかえつ有明中・高等学校さん。学校見学では、積極的に話し合う様子や、自分の探究を生き生きと語ってくださる生徒さんに出会うことができます。

そんな生徒さんたちが育つ教育とは?
そもそもどんな生徒さんが多く集まるの?
探究の学びをアップデートし続けていける秘訣は?
…などなど気になるあれこれについて、かえつ有明中・高等学校でサイエンス科・プロジェクト科の主任を務めておられる田中理紗先生にお話をうかがいました。全4回シリーズでお届けします。

特集「かえつ有明の探究をひもとく」

第1回:「安心・安全」あってこその探究 ←今回はここ
第2回:探究テーマが見つかる環境の整え方
第3回:テーマは自由?継続性は重要?
第4回:学び方は自分たちで決める!高校新クラス 

探究が好きで得意なお子さんばかりが入学するわけではありません

――かえつ有明さんは探究が有名ですので、積極的な性格のお子さんや探究が好きで得意なお子さんが入学する学校なのでは?という印象を持っておられる方が多いのではと思います。実際、そのあたりはどうなのでしょうか。

かえつ有明中・高等学校 田中理紗先生(以下、田中先生):
そういった面も確かにあるとは思います。と申しますのも、(中学受験をされる段階で、ご家庭は)かえつ有明にサイエンス科・プロジェクト科があるということは知っていただいているケースが多いですので、少なくともそういったことが大事だと思っておられるご家庭のお子さんが入学してきてくださっているでしょうから。ただその一方で、それが「大事だと思っている」ということと、お子さんが実際にそれを「得意である」ということはまた別で…

――確かに「好きだけど得意ではない」ということもありますよね。親御さんとお子さんのタイプが違う場合もあるかもしれませんし…。

田中先生:
そうですね。そういったケースも多々ありますので、実際には色々なタイプのお子さんが入学されていますよ。

――探究的な学びが得意でないお子さんが入学しても授業についていけるでしょうか?ここが気になる保護者さんは多いと思うのです。

田中先生:
大丈夫ですよ。私たちは、子どもたちがワクワクすることがものすごく大事だと思っていますので、特に中学1年生の間はかなりPLAYFULな(遊び心のある)内容をなるべくたくさん入れ込むことで、まずはこの授業楽しい!と思ってもらえるようにしています。サイエンス科の授業ってめちゃくちゃ楽しい!と思いながら参加しているうちに、気が付いたら探究のスキルが身についていた…という状態を目指しています。

――これまでで、特に好評だった授業はありましたか?

田中先生:
一概には申し上げにくいですね…。と申しますのも、(授業で取り組む内容が)刺さるか刺さらないかって、ほんとに子どもによるんです。どの子に何がヒットするかは毎回違っていて。学校周辺案内のパンフレットづくりで活躍した子が、次に取り組む「お弁当プロジェクト」(注:お弁当の企画・開発をするというコラボプロジェクト)でも活躍できるかといえばそうでもなかったりもします。私たちがサイエンス科の授業の中でなるべく色々なプロジェクトに取り組むようにしている理由は、そこにもあります。

本当にやりたいことは「役割」や「キャラ」の奥に隠れています

――必ずしも探究が好きで、かつ得意だというお子さんばかりではなかったとしても、入学後はそれぞれが成長していける、そんな学びの環境を整える上では「教育の3つの特色」のひとつに掲げられているダイバーシティ、特に「安心安全の学びの場」が重要だと聞きました。この点についてお聞かせいただけますか?

田中先生:
はい。毎年、4月はチームビルディングと安心・安全しかやっていないと言っても過言ではないぐらい、どの学年のどのクラスもそこからスタートします。生徒だけでなく教員もしっかり自己開示をすることで、生徒たちには「ここは彼らがありのままでよく、思っていることをやってもよく、それらが保障されている場所だよ」ということを最初にしっかり伝えます。そうすることで初めて彼らは、本当に探究したいテーマにも巡り合えると思っているところがあるんですね、私たちは。

――ありのままでいられる場所だと伝えることで生徒さんは探究したいテーマに巡り合える…?どういうことなのでしょう。

田中先生:
子どもたちは「与えられた役割」や「自分のキャラクター」に埋もれてしまっていることが多いんです。中学生は特にその傾向が強いのですね。だからこそ、「ここでは役割やキャラクターを演じるのではなく、本当の自分を出していいんだよ」「本心を出してもそれをばかにされたり攻撃されたりはしない安心・安全な環境なんだよ」ということが納得できないと、彼らが本当に自分がやりたいこと、探究したいことに向き合うのは結構難しいんじゃないかと。

――なるほど、確かにそうかもしれませんね。ところで、中学校1年生の4月から「安心・安全」のメッセージを生徒さんに伝え続けていった場合、いつ頃、生徒さんが「あ、ここが安心・安全な場所なんだな」と理解してくれるのでしょうか。

田中先生:
中3ですね。

生徒たちの発達段階にも合わせて安心・安全の場も進化していきます

――え!!そんなにかかるんですか?

田中先生:
そうですね…段階を追って変化はしていきますが、最終的にはそのぐらいまでかかっているかなと思います。中1の生徒たちは、5月~6月ぐらいになると一定の安心・安全は担保されるかなという感じにはなってはくるのですが、ちょうどその頃から彼らも反抗期を迎えて色々な鎧(よろい)をかぶる時期に入っていきますし。中2になると今度は、男子と女子とのあいだに何か妙な壁ができたりするんですよね。

――円になって座る時に半分が男子・半分が女子みたいに分かれてしまったりするような。

田中先生:
そうそう、まさにそんな感じです(笑)。そういった現象が本当の意味でなくなって「別に男子の隣に女子が座っていても平気だよね」みたいなふうになるには、彼らの発達段階も上がっていく必要があるのですね。ですから、やはり子どもたちが本当の意味で「安心・安全」について理解できるようになるのは中学3年生ぐらいになっているように思います。

――中3の生徒さんが作る安心・安全な場は中1の生徒さんのそれとは違うのですね。

田中先生:
そうですね。中1ですと最初は「楽しい、イエイ!」みたいな感じと申しますか(笑)、楽しくって自分も相手も傷つけなければオッケー!みたいなそれぐらいの感覚でいると思います。

――解放された感じなのですね(笑)。中1の段階ではそれでも良いのですか?

田中先生:
はい、それで大丈夫です。お互いを大事にすることが最低限できていればまずはよし!というところからスタートして、そこから徐々に、本当の意味で自分の感情と向き合ったり、自分の感情と向き合えたときに相手にも同じような感情があるんだということに気付いたりしていくことになるのですが、そこは自分をメタに見る力(メタ認知能力)が必要になったりもしますので…

――やはり中3ぐらいまで待たないといけないと。

田中先生:
そうですね。さらに言えば、中学3年生が作る安心・安全と高校2年生が作る安心・安全もまた、あと1段階ぐらい違うかなという感じがしています。彼らの発達段階にも合わせて安心・安全の場も進化していくんですね。

――ありがとうございました!次回は「探究テーマが見つかる環境の整え方」についてお話をうかがいます。

特集「かえつ有明の探究をひもとく」

第1回:「安心・安全」あってこその探究 
第2回:探究テーマが見つかる環境の整え方 ←次回はこちら
第3回:テーマは自由?継続性は重要?
第4回:学び方は自分たちで決める!高校新クラス

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mana-tan

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「学びと探究」(愛称:まなたん)のサイト管理者。オンライン合同学校説明会(https://www.jhschool.site/)の主催者でもあります。

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