【共通テスト×探究⑦】情報処理の鍵は「注目・単純化・言語化・抽出」

「今さら聞けない」「今だからこそ聞きたい」探究をめぐる素朴な疑問のあれこれに一つひとつ向き合っていく連載、今回の特集では「探究って大学受験に役に立つの?」という素朴な疑問への答えを探していきます。

特集「共通テスト×探究」

第1回:一般選抜で大学受験するなら探究は無駄!は本当か

第2回:数学で求められる読解力ってどんな力?

第3回:「正しく誘導に乗る」を体験してみよう

第4回:「教科書の内容を身に付ける」意外なメリットは 

第5回:課題設定力を使えば古典が速く解ける!

第6回:複数の情報を組み合わせる時のポイントは? 

第7回:情報処理の鍵は「注目・単純化・言語化・抽出」 ←今回はここ


大学入学共通テスト(以下、共通テスト)の「政治・経済」(2023年1月実施、本試験)の平均点は50.96点で、昨年度の56.77点から大幅に下がりました。この50.96点という平均点は、共通テストの前身である大学入試センター試験のときの平均点を含めても、過去最低となっています。

今回の政治・経済の平均点が過去最低となった要因の一つとして、資料や図表の読み取りに加えて、そこで読み取った情報を組み合わせて正解を導かなければならない問題が多かったことがあげられます。

2023本試験からわかること

情報処理の経験が試される出題

設問数は共通テストになってからも30問と変わりませんが、資料の読み取りと情報の組み合わせに時間がかかります。また資料の読み取りについても、2023年第1問は「ある自治体の広報誌」、第2問は「授業のまとめノート」、第3問は「ある大学のオープンキャンパスの案内(チラシ)」、第4問は「SDGsの調査計画に関するチャート図」といった、教科書や資料集で見かけることが少ないものを、それぞれの大問のリード資料として示しています。

このような資料の情報を限られた時間の中で、正確に読み取るためには、普段どれだけ情報処理の経験を積んでいるかポイントになります。

普段から情報処理の経験をたくさん積んでいると、文献資料だけでなく、広告・パンフレット、データブック・統計資料など、多様な形式の情報源に触れる機会が多くなります。その中で、それぞれの情報源は、どこに注目すると情報を適切に取り出すことができるのかも分かってきます。また普段の経験で、世の中にある情報源は必ずしも読み取りやすいものだけではないことにも気づけるので、共通テストを受験したときに出会う多様な資料を見たときも、動揺することは少なくなると考えられます。

迅速・的確な判断力を探究学習で

このような普段から多様な情報源に触れる機会となるのが、探究学習の【情報の収集】です。探究学習では、自分(または自分のグループ)が設定した課題(テーマ)に基づいて、文献やインターネット、インタビュー、フィールドワークなど多様な情報源から、必要な情報を集めていきます。

なお、集めた情報をポスターやスライドに示していくだけでは、情報の羅列で終わってしまいます。そこで、集めた複数の情報を組み合わせ、KJ法やベン図やマトリクスなどの思考ツールを利用して、そこから見えてくる傾向・法則性、共通点・相違点を自分なりに説明していきます。これによって情報を適切に活用しながら考察することができます。これが探究学習の【整理・分析】です。

課題の設定 
課題を設定し課題意識をもつ

情報の収集 
必要な情報を取り出したり収集したりする

整理・分析 
収集した情報を、整理したり分析したりして思考する

まとめ・表現 
気付きや発見、自分の考えなどをまとめ、判断し、表現する

このように総合的な探究の時間を中心として、普段から多様な形式の情報源に触れておくと「どんな資料であっても驚かずに向き合うことができる」「その資料から大切な情報を取り出すための注目ポイントをすぐに見つけることができる」「複数の資料を組み合わせて考えるときにどの思考ツールを使うとよいか判断が早くなる」といった、メリットがあります。それによって多数で多様な資料の読み取りと組み合わせが求められる共通テスト政治・経済の試験では、60分という限られた時間の中で落ち着いて正確に解答を導くことができるようになるわけです。

2023本試験を読み解く

とはいえ、実際のところ、大問の最初に示されているリード資料は、それぞれの小問と繋がるきっかけという位置づけに留まっています。そのため小問それぞれは独立した問題と捉えて解答することもできます。この点にも留意しつつ、以下では、2023年1月実施の政治経済の各大問で特に探究学習の経験が活きてくる設問を確認していきましょう。

第1問

第1問のリード資料は「ある自治体の広報誌」広報誌の構成は、知事コラム、県民の声、農業振興課だより、地球温暖化対策課だより、特集(県民シンポジウム)、主な行事となっています。 

この広報誌の内容をベースに小問が問1~問8まであります。その中で、問2・問6・問8は「図表(グラフを含む)の読み取り」、問5・問7は「会話文の読み取り」に関する設問です。

前者の読み取りでは「図表の中から特徴的な数値や変化を取り出す」必要があります【情報の収集】。そして取り出した「情報の比較・組み合わせ」で正解を導きます【整理・分析】。 後者の読み取りでは会話文中の複数の空欄について、「前後の文脈」を考えながら適当な文章を選ぶ必要があります【課題の設定】

第1問の中で高度な情報処理が求められると考えられるのは、問3と問4です。

まず問3は、日本・中国・ナイジェリア・ロシアの貿易輸出品のうち主要3品目を示した「表」と、これらの国の経済的特徴をまとめた「資料文」を組み合わせて考える設問です。ここでは【情報の収集】として、「表」の品目や数値のうち特徴的なもの(キーポイント)を取り出します。そして「資料文」から、各国について特徴的な表現(キーフレーズ)を取り出します。こうして取り出された情報を【整理・分析】として組み合わせ、問3では表ア(原油28.6%、石油製品17.3%、鉄鋼5.4%)に該当する国を選びます。この設問では、表と資料文という右脳的な情報と左脳的な情報それぞれが示している内容を対応させる点に難しさがあります。

次に問4は、日本の地球温暖化対策についてまとめた説明文について考える設問です。説明文中には複数の空欄があり、説明文の前後の文脈を踏まえる必要があります【課題の設定】。さらに、途中に2つの円グラフが示されていて、それぞれ2012年か2019年における日本の発電電力量を示していますが、どちらがどの時期かは明らかにされていません。そのため2つの円グラフの項目や数値のうち特徴的なもの(キーポイント)を取り出します【情報の収集】。そして、その特徴を比較して、どちらがどの時期か判断【整理・分析】、空欄ウ(2019年の円グラフはどちらかを問うもの)を答えます。さらに、この設問は3つの空欄ア~ウの正解の組み合わせを答えるものでもあるため、3つの空欄に当てはまるもの全てを正しく判断できなければならず、その点でも難易度が高くなっています。

第2問

第2問のリード資料は「授業のまとめノート」です。

まとめノートは、日本の地域社会、グローバル化と産業構造、日本の財政金融政策という3つのトピックについてそれぞれ箇条書きでポイントがまとめられています。このまとめノートの内容をベースに小問が問1~問8まであります。その中で、問4・問5・問6・問7は「図表(グラフを含む)の読み取り」、問8は「メモの読み取り」に関する設問です。

前者の読み取りでは「図表の中から特徴的な数値や変化を取り出す」必要があります【情報の収集】。そして取り出した「情報の比較・組み合わせ」で正解を導きます【整理・分析】。後者の読み取りではメモの中にある数値に注目し【情報の収集】、それらを比べながら、選択肢の記述と照らし合わせて正解を導きます【整理・分析】

第2問の中で高度な情報処理が求められると考えられるのは、問6と問7です。

まず問6は、2つの地域(地域Aと地域B)におけるリサイクルの基準年とそれから5年後の状況について示した表の読み取りに関する設問です。しかし表中の情報はリサイクル率がそのまま示されておらず、表中の分数(再資源化個数が分子、販売個数が分母)の意味を考える必要があります。

この設問は表が示している情報に対する前提説明の文字数が多いのが特徴です。また解答する上で「リサイクル率の増加をもってリサイクルが活発化したと評価するとき」という条件もあり、前提説明を正しく読み取ることが大切です【課題の設定】。そして、表中のそれぞれの分数の情報を取り出し【情報の収集】、それらを比較して正解を導きます【整理・分析】。ただし比較の対象として、地域Aと地域Bそれぞれの基準年とそれらか5年後の状況という「4つの数値」だけでなく、2つの地域を合わせた国全体における基準年とそれから5年後の状況についても考えなければなりません。この国全体の数値については、表中にそのまま示されていないので、地域AとBの分数を足す計算をした上で、それらを含めた「6つの数値」の比較が求められています。

次に問7は、日本国債の保有者の構成比と保有高についての円グラフを読み取る設問です。円グラフは2011年3月と2021年3月の2つが示されています。これらの円グラフをもとにして、4つの選択肢から最も適当なものを選びます。選択肢の内容は「金融緩和と金融引き締めのどちらが反映されているか」「日銀が国債を直接引き受けたか、民間金融機関との間での売買を行ったか」の組み合わせで構成されています。

選択肢を検討するにあたり、それぞれの円グラフの中から特徴的な変化を取り出す必要があります【情報の収集】。そして、円グラフを比較して、2011年から2021年でどの保有者の比率が大きく変化したのかを明らかにして、その内容と合致する選択肢を探します【整理・分析】

第3問

第3問のリード資料は「ある大学のオープンキャンパスの案内(チラシ)」です。

チラシの主な内容は、スケジュール、2つの模擬授業の概要で、小問と関連する下線が引かれているのは、2つの模擬授業の概要の部分になっています。このチラシの内容をベースに小問が問1~問8まであります。その中で問5は「チャート図の読み取り」、問2・問3・問6・問7・問8は「会話文・メモ・判例の読み取り」に関する設問です。

前者の読み取りでは「チャート図中の主体(有権者・内閣・国会・行政各部)をつなぐ矢印の意味を比べる」必要があります【整理・分析】。後者の読み取りに関し、会話文とメモでは、その中にある複数の空欄について、「前後の文脈」を考えながら適当な文章を選ぶ必要があります【課題の設定】。また判例では、2つの判例それぞれの特徴的な表現を取り出し【情報の収集】、それらを比べながら、選択肢の記述と照らし合わせて正解を導きます【整理・分析】

第3問の中で高度な情報処理が求められると考えられるのは、問7です。

問7は、「世論形成における個人やマスメディアの表現活動の意義」について考える模擬授業の資料として示された2つの判例の読み取りに関する設問です。2つの判例をもとにして、4つの選択肢から最も適当なものを選びます。選択肢の内容は、述部(憲法第21条で保障されるか、保障されないか)と、主部(判例1では個人の表現の自由か公共的事項にかかわらない個人の主義主張の表明か、判例2では報道の自由か単なる事実の伝達か)との組み合わせで構成されています。選択肢を検討するにあたり、それぞれの判例から特徴的な表現を取り出す必要があります【情報の収集】。そして、判例の情報と選択肢の主部と述部の繋がりとを組み合わせて、内容が合致している選択肢を探します【整理・分析】

第4問

第4問のリード資料は「SDGsの調査計画に関するチャート図」です。

チャート図は「SDGsの意義と課題」をテーマに探究を行う際の調査計画の概要です。調査計画は探究活動の形をとっているので、チャート図中には「課題の設定」「資料の収集」「整理と分析」「まとめと発表」という形で、探究の4つのプロセスに対応した表現があります。

このチャート図の内容をベースに小問が問1~問6まであります。その中で問1は「4つのスライドの並べ替え」、問4は「会話文の読み取り」、問5は「メモと図表を組み合わせた読み取り」、問6は「メモと会話文を組み合わせた読み取り」に関する設問です。

問1と問4は、「情報の前後関係」を考えながら並べ替えまたは空欄補充をする必要があります【課題の設定】
問5と問6は、メモともう一つの資料(図表・会話文)それぞれから特徴的な表現や数値(数値の変化)を取り出し【情報の収集】、それらの情報を組み合わせながら、選択肢の記述と照らし合わせて正解を導きます【整理・分析】

第4問の中で高度な情報処理が求められると考えられるのは、問5と問6です。

まず問5は、各国における対外債務の問題について2つの資料(メモと各国データ)の読み取りに関する設問です。2つの資料をもとにして、選択肢から最も適当なものを選びます。選択肢の内容は、アルゼンチン、インドネシア、南アフリカに関する記述a・b・cの組み合わせ(7パターン)で構成されています。このうち、記述a・b・cの正しいものだけが入っている選択肢を選びます。選択肢を検討するにあたり、メモと各国データから特徴的な表現を取り出す必要があります【情報の収集】。そして、それらの情報を用いて、記述a・b・cの正誤判定を行い、正しいものだけが入っている正解を導き出します【整理・分析】

次に問6は、SDGsの特徴について2つの情報(メモと会話文)の読み取りに関する設問です。最終的には会話文の2つの空欄に当てはまる記述をそれぞれ選び、その組み合わせとして最も適当なものを正解として導くことになります。空欄に入る記述は会話文の中にあるため、前後の文脈を踏まえて判断する必要があります【課題の設定】。そして、メモと会話文からそれぞれ特徴的な表現を取り出し【情報の収集】、それらの情報を用いて、空欄に当てはまる記述として最も適当なものがどれか判断します【整理・分析】

まとめ -注目・単純化・言語化・抽出-

ここまで見てきたように、共通テストの政治経済では、資料として、会話文、メモ、授業ノート、レポート、判例、チャート図、グラフなど、多種多様の資料が示され、それらの読み取りと、情報の組み合わせが求められる問題が大部分を占めています。

これら多種多様の資料の読み取りを限られた時間で行うためには、普段から資料の中にある情報に注目するトレーニングをしておくことが大切です。

探究学習では【情報の収集】のプロセスとして、たくさんの資料に触れる機会があります。しかし、集めた情報をそのままレポートや発表スライドに載せてしまうと、膨大な量になってしまい、他の人に上手く伝わりません。そこで、探究学習では【整理・分析】のプロセスで、情報の抽出や情報の組み合わせをおこない、その情報が持っている特徴的な部分などをはっきりさせていきます。「組み合わせ」では、ベン図・マトリクス図・KJ法・ステップチャート・バタフライチャートなどの思考ツール・思考法を活用します。ただし、このような思考ツール・思考法を活用するためには、資料の中から適切に情報を「抽出」することが必要です。

そのとき意識しておきたいのが、「異物感のある部分」に注目することです。

この「異物感のある部分」とは、特徴的な表現、特徴的な変化の部分です。

文章中心の資料では、キーフレーズと思われるものであったり、強い肯定や強い否定が含まれるものであったりが特徴的な表現と考えられます。そして、これらの表現をベン図やKJ法での情報処理に使いやすいように、短めの表現に置き換える「単純化」によって抽出します。

次に図表などの資料では最大値、最小値、急激な増減、逆にある程度の期間連続して変化なしなどが特徴的な変化と考えられます。そして、それらの変化がいつ・どこで・どのように生じているかといった表現で「言語化」し抽出します。

このような探究学習での【情報の収集】で普段から多種多様の資料に触れている経験、【整理・分析】で普段から資料中の「異物感のある部分」に注目し情報処理を繰り返す経験は、共通テストの政治経済で必要とされる、限られた時間での資料の読み取りにとっても大いに役立ちます。


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斉藤健

斉藤健

自修館中等教育学校教諭として探究教育を先駆けて実践。早稲田大学系属早稲田渋谷シンガポール校、シンガポール日本人学校中等部など教諭を経て、現在ビエンチャン日本語補習授業校の教員、如水館バンコク高等部のオンライン講師、iU(情報経営イノベーション専門職大学)客員教授。主な著書に、探究型教材『FUTURE』小学生版、中学生版Vol.1・Vol.2・Vol.3:STEAMがある。スタディサプリ探究講座(興味研究ワークBOOK/課題発見ワークBOOK)の制作にも携わる。

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