「今さら聞けない」「今だからこそ聞きたい」探究をめぐる素朴な疑問のあれこれに一つひとつ向き合っていく連載、今回の特集では「探究って大学受験に役に立つの?」という素朴な疑問への答えを探していきます。
特集「共通テスト×探究」
第1回:一般選抜で大学受験するなら探究は無駄!は本当か
第2回:数学で求められる読解力ってどんな力?
第3回:「正しく誘導に乗る」を体験してみよう
第4回:「教科書の内容を身に付ける」意外なメリットは
第5回:課題設定力を使えば古典が速く解ける!
第6回:複数の情報を組み合わせる時のポイントは? ←今回はここ
大学入学共通テスト(以下、共通テスト)の「国語」(2023年1月実施、本試験)には、探究学習の「4つのプロセス」(①課題の設定→②情報の収集→③整理・分析→④まとめ・表現)を活用することで課題文や設問文から適切に判断材料を取り出し、正解を導きやすくなる設問が多くあります。
第5回では、共通テスト2023国語の大問3・4(古文・漢文)を例として、探究プロセスの活かし方をお伝えしました。今回は、大問1(評論文)を例にとって、①~③の具体的な活かし方を学んでいきましょう。
目次
評論文と論説文の解き方は違う
共通テスト国語の大問1は、論説的文章です。評論文が使われていることが多いです。
評論文は「論説文とほぼ同じ」(だから読解の仕方も同じ)という意見も多いようですが、個人的には、評論文と論説文では、読みやすさや読む時に必要な心構えが少し違うように思います。
「主張する」論説文
論説文は、筆者の主張を述べるための文章ですので、筆者の主張が、形を変えて何度も展開されます。主張をわかりやすく伝えるために、エピソードを使ってみたり、一般論を引き合いに出してみたりといった工夫もされています。これらはすべて、自分の言いたいこと(=主張)を伝えるための工夫です。
このように筆者自身が一生懸命伝えようとしているため、論説文は文章のポイントをつかみやすいことが多いです。「キーワードに線を引こう」「接続詞に注目しよう」「段落の最後には重要な文章が書かれていることが多いので注目しよう」などの論説文読解テクニックが効きやすいもの、論説文の特徴と言えるでしょう。
「主張しない」評論文
一方、評論文の場合、筆者の主張はあまり強くないこともよくあります。
なぜなら、評論文の目的は「批評や評価」にあるため、筆者の姿勢も「評価的」になるからです。
評論文は、評価的な文章――自分の意見を最初からぐっと押し出す(これは論説文の特徴ですね)というよりも、入手できた事実や観察した事象などを並べてそれらから導き出される判断を伝える、というスタイルの文章になっていることがよくあります。
このようなスタイルの文章が出題された時は、「キーワードに線を引こう」「接続詞に注目しよう」「段落の最後には重要な文章が書かれていることが多いので注目しよう」などの”読解テクニック”だけではうまく解けないことがあります。実際、この点に戸惑いを覚えて「点数がとれない!」「現代文は苦手!」となってしまう受験生も多いのではないでしょうか。
評論文にこそ探究プロセスを使おう
そんな評論文を読み解く時にこそ、おすすめしたいのが探究学習を通じて学んできた4つのプロセスの活用です。
①課題の設定
課題を設定し課題意識をもつ
②情報の収集
必要な情報を取り出したり収集したりする
③整理・分析
収集した情報を、整理したり分析したりして思考する
④まとめ・表現
気付きや発見、自分の考えなどをまとめ、判断し、表現する
第5回では、古典(古文・漢文)を短時間で解くコツは、「②情報収集」をしているつもりで問題文と設問を眺めることにあるとお伝えしました。そして、情報収集をするときには、②の前段階=「①課題の設定」=何のために情報を集めるのか?を指針としてしっかり持っておくことが重要であることもお伝えしました。
②情報の収集をしているつもりで問題文と設問を眺める
「①課題の設定」=何のために情報を集めるのか?を指針としてしっかり持っておく
この2つは、現代文を解く時にも同じように使うことができます。
特に評論文では、これらに加えて「③整理・分析」の手法も活用することで、より効率的に正解にたどりつくことができるようになります。
キーワードの見当をつける①前文と出典
では、具体的な出題内容を見て行きましょう。
共通テスト2023本試験の大問1は、前年度に続いて二つの文章を読ませる形の出題となっていました。
建築家ル・コルビジェが手がけた「窓」について異なる観点で書かれた2つの文章(文章Iと文章Ⅱ)です。文章Ⅰは3ページ、文章Ⅱは1ページ半と、なかなかのボリュームですので、やみくもに読み始めると時間がかかりすぎてしまうかもしれません。論説文ほど筆者の主張が強くない評論文では「ここがポイント」という部分が見つけづらいため、特に注意が必要です。
そこで、まず取り組みたいのが、文章の中のキーフレーズを探すことです。
なお、キーフレーズと聞くと、本文の中に何度も出てくる単語や大事そうな表現に片っ端から印をつけてしまう人がたまにいるのですが、その単語がどんな役割を持っているのかを考えずに印をつけすぎてしまうと、あとで本文を読みづらくなることもありますので、やみくもに印をつけるよりも先に、見当をつける習慣をつけると良いでしょう。
「見当をつける」材料として、まず課題文の前後を眺めてみることにします。
まずは、課題文の「前」――前文(「第1問」という文字の下に書いてある説明)を読んでみます。この情報を頭に入れておくだけでこの後に得られる情報の質がぐっと高まる…ということは、第5回でもご説明したとおりです。
次の【文章Ⅰ】は、正岡子規の書斎にあったガラス障子と建築家ル・コルビュジエの建築物における窓について考察したものである。また、【文章Ⅱ】は、ル・コルビュジエの窓について【文章Ⅰ】とは別の観点から考察したものである。
大学入学共通テスト「国語」第1問(2023年1月実施、本試験)より
次は、課題文の「後」――【文章Ⅰ】の出典を見てみましょう。
柏木博『視覚の生命力――イメージの復権』による
大学入学共通テスト「国語」第1問(2023年1月実施、本試験)より
たったこれだけの文章からも、たくさんの情報が得られました。
まずは、「建築家ル・コルビュジエ(にとって)の窓(とはどのようなものか)」が文章Ⅰ・Ⅱに共通するテーマであろうということ。そして、文章Ⅰの出典タイトルを見る限り「視覚」がヒントになりそうだということです。
ここでひとつ疑問が湧くのは、正岡子規とル・コルビュジエとの関係です。この2つにはどんな関係があるのでしょうか。こんなふうに「?」を持ちつつ文章を読むのはとても良いことです。心の中に「?」があれば、目と頭が自然とその答えを探そうと動いてくれるからです。
キーフレーズの見当をつける②設問
では次に、設問をざっと眺めていきましょう。
たとえば、問2。5つの選択肢すべてに共通しているであればそれは正しい、つまり本文に書いてある内容だと考えることができるのは、第5回でもご説明したとおりです。ここでは、以下の2つが本文に書いてあると想定できそうですね。
- 正岡子規は病気だった
- その状態の子規に、ガラス窓が何らかの効果をもたらした
次に、問3を見てみましょう。
問3
大学入学共通テスト「国語」第1問(2023年1月実施、本試験)より
傍線部B「ガラス障子は『視覚装置』だといえる。」とあるが、筆者がそのように述べる理由として最も適当なものを、次の①~⑤のうちから一つ選べ。
問3で「筆者がそのように述べる理由」を質問していることからは、
- 「ガラス障子は『視覚装置』だといえる」は重要な考え方である(わざわざ理由を尋ねているので)
- 文章Ⅰの中には、筆者が「ガラス障子は『視覚装置』」であるといえる」と考えるに至った根拠が示されている
- 視覚装置、という言葉はキーフレーズとつながっているかもしれない
という3つがわかります。
この3つをつかんだ上で、文章Ⅰに戻って傍線部Bの前後を見ると… 正岡子規の話とル・コルビュジエとの関係が明らかになります(先ほど疑問を持ったポイントです)。
正岡子規にとって、書斎の障子をガラスにしたことは、窓を「視覚装置」にする行為だった。そして、ル・コルビュジエはまさに、この「視覚装置としての窓」をきわめて重視していた人だった、ということなのですね。つまり、正岡子規の話はいわば、本文をわかりやすくするエピソードとして使われているということがわかってきました。
この情報を指針としてもう一度本文に戻れば、読解にかかる時間はぐっと短縮されるはずです。ぜひ試してみてください。
整理・分析でさらに正解へと近づこう
ここまでで説明してきたような、前文と出典、設問を使って本文を読みやすくする手法は、探究のプロセスで言えば「①課題の設定=何のために情報を集めるのか?」を明確にし、「②情報の収集」の効率を高めるものです。
ただ、現代文(特に論説的な文章)の場合は、情報収集をしたあとにもうひと手間かけて、情報を「③整理・分析」する必要があります。
問4は以下に示す通り、「ル・コルビュジエの窓(壁を含む)の特徴・効果」について考える設問ですが、それを明らかにするためには、集めた情報をそのまま見つめているだけでは十分ではありません。ル・コルビュジエの窓(壁を含む)についての記述部分には、子規にとっての窓とも共通する内容があり、その部分も含めて「ル・コルビュジエの窓(壁を含む)の特徴・効果」と捉えてしまうと、ミスリードになる可能性があるからです。
問4×ベン図
問4の設問文は次のようになっています。
問4
大学入学共通テスト「国語」第1問(2023年1月実施、本試験)より
傍線部C「ル・コルビュジエの窓は、確信を持ってつくられたフレームであった」とあるが、「ル・コルビュジエの窓」の特徴と効果の説明として最も適当なものを、次の①~⑤のうちから一つ選べ。
ここでは傍線部Cがある文章Ⅰのキーフレーズに注目し、【情報の収集】を行うわけですが、資料Iの中には、ル・コルビュジエの窓(壁を含む)特有のものだけが書かれているわけではありません。文章Ⅰには、窓に関わるキーフレーズが散らばっていますが、それらを異なるグループに属する情報として組み合わせることで、文章1の構造がはっきりしてきます。この異なるグループというのは、「正岡子規を含めた窓一般に関わるキーフレーズのグループと、ル・コルビュジエの窓(壁を含む)特有のキーフレーズのグループであると考えられます。
そこで、【整理・分析】のため「ベン図」を用いて考えると、ル・コルビュジエの窓(壁を含む)の特徴・効果が明らかになってきます。
文章Ⅰから「窓(壁を含む)について比較可能な表現(単なる名詞ではなく、性質など)が含まれているもの」を探してみると、例えば、
「見ることのできる装置(室内)へと変容」
「外界を二次元に変えるスクリーン」
「窓の多様性」
「おだやかなもの(ではない)」
「操作されたフレーム(ではない)」
「換気ではなく視界と採光を優先」
「思い切った判断で選別しなければならない」
「水平線の広がりを求める」
などのキーフレーズが出てきます。
これらを「ベン図」で整理すると次のようになります。
ここから、ル・コルビュジエの窓(壁を含む)の特徴・効果は、窓(壁)に多様な役割を求めていることが分かります。そして、視界と採光を優先するため、人間が操作・選別をし、視界を遮ることで水平線の広がりを作り出していることも分かります。
問5×時系列表
問5は「壁が人間と風景との関係に及ぼす影響」について考える設問です。
この設問では、ル・コルビュジエにとって即興的ではない、普遍的で基本的な考え方は何であったのか、そして壁によって住宅はどんな空間になると考えられたのかを、文章Ⅱのキーフレーズを使って整理・分析すると、選択肢の考察が容易になります。
文章Ⅱのキーフレーズの中で特に注目したいのは、ル・コルビュジエの思想の動きです。それは「初期」「その後の展開」「後期」という言葉からも分かります。
そこでここでは【整理・分析】のため「時系列表」を用いて考えてみます。時系列表は、時間の経過を軸にして、出来事を並べることによって、前後関係や変化をはっきりさせることができます。
ここから、ル・コルビュジエは一時的に影をひそめはしますが、動かぬ視点として「住宅が沈思黙考の場、瞑想の場」と考えていたことが分かります。壁は住宅をそのような場に変えるという意味を持っていることになるので、選択肢のうち人間と風景のつながりを重視するもの(②や④)は適当でないと判断することもできます。また言及されているのは「沈思黙考」や「瞑想」という行為一般であり、心を癒す(①)という目的や自己内省(⑤)という対象に説明を絞っているわけでもないことにも気づくことができます。
問6×ベン図
問6は、これまで解答してきた問2から問5の設問で得られた情報を組み合わせながら考えることで、正解を導きやすくなります。つまり、問2から問5は、問6で整理・分析を行う際の材料と考えることができるわけです。
もちろん問2から問5はそれぞれ独立した問題ですし、それぞれの正解がどの選択肢かしっかりと確認してから問6を解答できるわけではありません。しかし、問2から問5までがどのような内容を問うていたかという「出題意図」を確認し【情報の収集】、それを問6に関わる内容と組み合わせて考える【整理・分析】ことで、本文の核となる内容を正しく捉えた考察ができるようになります。
問6(i)は、文章Iと文章Ⅱの両方にでてくる引用文について比較する設問です。ここでは【整理・分析】として共通点と相違点を明らかにするために「ベン図」が有効です。
引用文の表現をベン図で表すと図のようになります。
そして、文章Ⅰと文章Ⅱに残った表現の部分が、それぞれの特徴を表しているので、そこに注目すると、文章Ⅰでは壁が撤去されることに焦点があり、文章Ⅱでは壁が設置されることに焦点があることが分かります。
そして、問6(ⅱ)と(ⅲ)は、特にこれまでの設問の出題意図が材料になる設問です。
まず問2から問5の出題意図を確認してみましょう。
問2は傍線部Aから、「子規にとっての窓(ガラス障子)の役割」を明らかにするという設問でした。
問3は傍線部Bから、「ガラス障子が『視覚装置』として果たす機能を筆者はどのように考えていたか」を明らかにする設問でした。
問4は傍線部Cから、「子規にとっての窓(ガラス障子)の役割を越えた、ル・コルビュジエの窓の特徴・効果」を明らかにするという設問でした。
問5は傍線部Dから、「壁が人間と風景との関係に及ぼす影響」を明らかにするという設問でした。
これらの情報を組み合わせて考えると、本文の核となる内容は次のように表現できるようになります。
「ガラス障子や壁といったものは『視覚装置』として、人間と風景の関係に影響(何らかの変化)を及ぼす。そして、ル・コルビジェが考えた窓・壁というものは、子規にとっての窓(ガラス障子)以上に、重要な意味を持っていたことが、ル・コルビジェの窓・壁の特徴・効果から分かる。」
論説的文章の「整理・分析」で使いやすい手法は
ここまで見てきたように、論説的文章では、本文中のキーフレーズを情報として取り出し、それら複数の情報を組み合わせるような図を作ると、本文の構造が立体的なものとして可視化され、設問を考えやすくなることが分かりました。
今回、複数の情報を組み合わせるために、いくつかの設問で用いた「ベン図」は、異なる立場について「比較」しやすいというメリットがあります。ベン図を土台として、文章中に散りばめられている複数の情報が組み合わされると、対比関係を軸にしながら、それぞれの立場の特徴をはっきりさせることができます。
他にも、対比関係を軸にする手法として「マトリクス図/座標図」があります。「マトリクス図/座標図」は2つの軸を用いて、対比関係を細かく分析することができます。ただ、共通テストは試験時間が限られているので、できるだけ効率的に本文の核となる構造をあぶり出していく必要があります。いかに詳細に分析できる手法だとしても、それに時間がかかりすぎてしまうと、全ての問題に手が回らなくなってしまいます。そのため、「マトリクス図/座標図」で、二つの軸の両端の表現をすぐにイメージできないならば、「ベン図」による大まかな二分法が有効です。
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