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先生と生徒の組み合わせからベストなカリキュラムを考える
田中先生:
もちろん、4月にまずやることはチームビルディングだろうねとか――対話ができる関係性ができないと探究も進みませんし学びも深まりませんからね――(年度末の)3月は振り返りになるかなとかそのぐらいはなんとなく決まっていますし、中1にはいきなりディスカッションはむずかしいだろうから最初はペアインタビューがいいかなみたいなことはあるんですが、明確な「この流れに沿って」みたいなものはまったくない状態からスタートしています。
――それはすごいですね。毎年変えるというやり方は探究を始めた当初から続いているのですか?
田中先生:
いえいえ、試行錯誤の結果ここに至ったという感じです。
外部の探究教材を使ってみたこともあるのですが、人から与えられたものって結局「やらされ」になってしまうんですよね。特定の先生に考えていただく形でカリキュラムを作っていた時期もあったのですが、そうすると結局作った先生と作らなかった先生の間で差が生まれてしまって。
色々な形を試してきた結果、みんなで一緒に作ることがすごく大事だと思うようになりました。今は、4月のチームビルディングをしている間に、その時の子どもたちの様子とその時に担当している先生たちの組み合わせでベストなものを考えていく形をとっています。
先生が「みんなで」カリキュラムを作るメリットは
――その年度の生徒さんたちの様子とその時に担当しておられる先生たちにあったものを考えていく…それは理想の形だと思いますが、なかなか実践できることではないと思います。なぜそんなことが可能なのでしょうか。
田中先生:
本校ではサイエンス科・プロジェクト科を担当している教員――専任教員の半分以上を占めています――が、週に1回集まって勉強会を開いています。この勉強会の前半は研修会で、後半は各学年で集まって教材を作る時間、つまり、来週何をやるか・今月は何をやるかなどを決めていく時間としているんですね。こうした時間が最初から確保されているから4月の時点で先生たちが不安なくスタートできるところもあるのかなと思います。
――週1回!それもすごいですね。勉強会を毎週開くのはなぜですか?
田中先生:
サイエンス科・プロジェクト科は、学ぶ・探究する・考えるために必要なスキル、要は、これからの時代に必要なスキルを教えていく授業です。これからの時代に必要なスキルは更新され続けていきますから、この科目を担当する私たち教員も学び続けて自分たちをアップデートしなければいけませんよね。
年を経るごとに前向きな先生方が増えてきました
――サイエンス科・プロジェクト科を担当する先生はどのように決まるのですか?
田中先生:
希望制です。なかには学校からお願いして担当してもらうケース――たとえば新任の先生などこれから頑張っていただきたい方に声をかけたりなど――もゼロではないのですが、基本的には全員希望制としています。ですから、サイエンス科・プロジェクト科にはこれからの学びを作っていきたいと思っている先生たちが集まっているんですね。
――積極的な先生方が多いのですね。
田中先生:
もちろん、最初からそうだったわけではないんですよ。本校は開校当初からサイエンス科をやっていますので、もう18年になるのですが、最初の頃は担当したいと手を挙げる先生もそんなに多くはいなくて。でも、18年やってきたことで今は(学校の)文化として結構根付いていますし、そもそもうちはサイエンス科とプロジェクト科がある学校という認知がありますので、積極的にそういうことを教科の授業でもやっていったほうがいいんだろうなということはまず前提として先生方も思っているというところはたぶんあるんじゃないかなと。
――実際にサイエンス科・プロジェクト科に携わったことで先生に変化が生まれた部分もあるのでしょうか。
田中先生:
それもあると思います。実際、サイエンス科・プロジェクト科の探究的・対話的な授業を担当していただくことには、自分がもともと担当しているもうひとつの教科でもそういった授業をしてみたくなるんじゃないかという期待、つまり教員研修のような意味合いもありますので。
先生が自分のタイミングで実践することが大切と考えています
――そこは「期待」なのですね。
田中先生:
はい。実際にどの程度自分の授業の中でやってもらえるかに関しては、学校としては強制はしませんので。生徒の探究でも同じなのですが、自分自身が「やりたい」と思うタイミングでやるのでないと、誰かに強制してやらされるものは「偽物(にせもの)」になってしまいますし、そこに魂(たましい)がのっていなければそれは子どもに絶対伝わってしまいますので、強制するようなことはせずに待ちますね。
――成功事例の共有などはされますか?
田中先生:
はい、それはもちろん。勉強会で毎週集まっていますので、「こんなことがうまくいったよ」みたいな事例の共有、お互いの授業を話してもらいましょうといった話はもちろんあります。その結果、それこそ1時間目のサイエンス科の研修でやったことを同じ日の3時間目の授業でその先生がもう実践している…みたいなことがたくさんおきていますので、そういったことを楽しんでしまっている先生方も多いですね。
週1回の勉強会で授業づくりを一緒に、しかも他教科の先生と一緒に作っていくという経験をすることで知見も広がりますし、ご自身の授業づくりにも何かしらの変化がもたらされるかもしれませんし、そうでなかったとしても、サイエンス科・プロジェクト科を担当することで「これからの学び」とはどんなことかをずっと考え続けることになりますので、そのことが先生たちの中に何かしらの良い効果をもたらすのではないかなと思っています。
――ありがとうございました!次回は探究テーマや評価についてお話をうかがいます。
特集「かえつ有明の探究をひもとく」
第1回:「安心・安全」あってこその探究
第2回:探究テーマが見つかる環境の整え方
第3回:テーマは自由?継続性は重要? ←次回はこちら
第4回:学び方は自分たちで決める!高校新クラス
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