【ホームルーム×探究②】クラス目標の話し合いにも探究が活かせる!

「今さら聞けない」「今だからこそ聞きたい」探究をめぐる素朴な疑問のあれこれに一つひとつ向き合っていく連載、今回の特集は、ホームルーム(HR)に探究が活用できる!というお話をしていきます。

特集「ホームルーム×探究」

第1回:生徒主体の合意形成を実現する鍵は? 

第2回:クラス目標の話し合いにも探究が活かせる! ←今回はここ


決めごとが多い年度始め

新年度が始まると、クラスでは早速、クラス目標、委員会や係、掃除分担など、さまざまなことを決めていくことになります。

これらはできるだけ早く決まった方が学校の「日常生活」を始めやすくなるのですが、だからといって決める際にスピードを重視し過ぎてしまうことは、長い目で見ればクラス運営にとってプラスになりません。先生方もそのことを理解しておられるがゆえに悩まれるのではないでしょうか。

でも、ご安心ください。これらの決めごとをスムーズに”乗り切る”ことはもちろん、それ以上の効果――生徒さん達が新年度早々から多くの気づき・学びの機会を手に入れ、様々な話し合いの内容を自分ごととして捉える習慣がつき、「考える集団」として成長していくきっかけをつかめるようにする方法があるのです。

今回のコラムでは、このような効果を生む話合いのファシリテートとはどのようなものかをケーススタディを通じてお伝えするとともに、そこに「探究」の考え方やスキルが大いに役立つことをお伝えしたいと思います。

ケーススタディ:クラス目標決め

たとえば、ロングホームルーム(LHR)でのこんなシーンを思い描いてみてください。

第1段階

新年度が始まり、あるクラスではクラス目標をどうするか話し合いが行われていました。

しかし、まだクラスが発足して2日目だったので、生徒たちはお互い緊張しています。
そのため、ほとんど意見は出てきませんでした。

そこで学級担任の先生は小さな紙を配り、自分が考えるクラス目標を1つ書いて持ってくることを宿題にしました。

翌日の朝のHRで先生は、生徒たちが書いてきたクラス目標の紙を集めました。そして、1限が始まる前に内容を確認してみたところ、紙に書かれていたものは想像以上に多種多様でした。

「頑張るクラス」「団結するクラス」といった抽象性が高いものもあれば、「切磋琢磨」「十人十色」「百花繚乱」といった四字熟語もあり。なかには、「全集中」「劇的ビフォーアフター」「いつやるか、今でしょ」のように、テレビなどで有名になったフレーズをそのまま使ったものもありました。

あまりに多種多様なこれらの回答を見て、先生は、「この状態で話し合いをしてもうまくまとまらない気がする…」と困ってしまいました。

カオスな意見が集まった理由は…

クラス目標決めは早速つまづいてしまったようですが… いったいなぜ、こんなことになったのでしょうか。

そのヒントが、探究のプロセスにあります。

このケースでは、クラス目標について生徒さんに考えてもらうため、学級担任の先生は「一人一つ考えてこよう」という働きかけをしていました。

これは探究のプロセスでは【情報の収集】にあたるのですが… 「探究のプロセス」を示した下の図をご覧ください。

出典:文部科学省『高等学校学習指導要領(平成30年告示)解説 総合的な探究の時間』

探究学習では、基本的なプロセスの順序として、【情報の収集】の前に【課題の設定】が配置されています。

もちろん4つのプロセスは入れ替わったり、繰り返されたりすることが当然あり、順序は固定的ではありません。ですが、そうはいってもやはり、【情報の収集】は、闇雲に材料を用意してから考えるものではなくどのようなねらいをもって集めるかという「方向性」としての【課題の設定】が前提として必要であることが、この図からわかります。

この観点から考えますと、担任の先生のの働きかけは、”方向性”なしにとりあえず”完成形の状態での候補を集めた”ことが、「比較や検討」としての【整理・分析】につながる話し合いを難しくしてしまったと考えられます。

多数決も組み合わせもNGなワケ

話し合いが難しいのなら、生徒さんが書いてきたものの中から多数決で決めれば良いのでは?とのお考えになる方もおられるかもしれません。

ですが、機械的に多数決で決めると「響きが良い」「何となく面白そう」といった雰囲気優先で決まりがちであることは、前回のコラム(【ホームルーム×探究①】生徒主体の合意形成を実現する鍵は?)でお伝えしたとおりです。

クラス目標は、その後の日常・学習・行事などと結びつけ、意識してもらうことでその都度「具体的な行動」をイメージできるようにするための重要なツールです。

そのため、響きや面白さだけでクラス目標を決めてしまうと、日常・学習・行事での「具体的な行動」を考えるのが難しくなり、せっかくのクラス目標が綺麗な飾りで終わってしまってもったいないのです。

では、生徒さん達が挙げてくれたものを「組み合わせて」クラス目標を作れば良いのでは?とのご意見もあろうかと思います。

ですが、生徒さんの意見それぞれを「完成形」として扱わず、要素だけを取り出して組み合わせようとすることは生徒さんのやる気を削ぐ可能性もありますので、できれば避けたいところです。


今回のケースでは、やはり最初に「方向性(=【課題の設定】を定めておく必要があったようとわかりました。

とはいえ、すでに「クラス目標を書いた紙」を集めてしまった今、担任の先生はどうすれば良いのでしょうか。

(次ページ:担任の先生の挽回策と具体的な声かけ)

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斉藤健

斉藤健

自修館中等教育学校教諭として探究教育を先駆けて実践。早稲田大学系属早稲田渋谷シンガポール校、シンガポール日本人学校中等部など教諭を経て、現在ビエンチャン日本語補習授業校の教員、如水館バンコク高等部のオンライン講師、iU(情報経営イノベーション専門職大学)客員教授。主な著書に、探究型教材『FUTURE』小学生版、中学生版Vol.1・Vol.2・Vol.3:STEAMがある。スタディサプリ探究講座(興味研究ワークBOOK/課題発見ワークBOOK)の制作にも携わる。

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