かえつ有明中・高等学校でサイエンス科・プロジェクト科の主任を務めておられる田中理紗先生のお話、第3弾です。今回はテーマ決めについてお聞きしました。
探究学習のテーマは、①学校が決める、②学校が大テーマを決めて生徒さんはその中から小テーマを選ぶ、③生徒さんが自由に決める…などさまざまな方法があります。本当は生徒さんに自由に決めさせてあげたいけれどもテーマが多岐にわたると対応しきれない、とお悩みの先生も。
また、複数年にわたって探究をしていく場合、生徒さんのテーマの継続性をどう考えるか――変わることをよしとするか、変わらないほうがよいのかも悩みどころだったりします。かえつ有明さんではこれらの点をどう解決しているのでしょうか。
特集「かえつ有明の探究をひもとく」
第1回:「安心・安全」あってこその探究
第2回:探究テーマが見つかる環境の整え方
第3回:テーマは自由?継続性は重要? ←今回はここ
第4回:学び方は自分たちで決める!高校新クラス
どんなテーマを選んでもOK!その理由は
――かえつ有明さんの探究は、中3以降は生徒さんが自由に自分の探究テーマを決めていく形ですよね。その形ですと、生徒さんに探究テーマを選んでもらう際には、指導する先生方の側のスペシャリティによる制約も課題になるとうかがったことがあります。先生の専門分野やカバーできる分野からテーマを選んでもらう形になることもあると。
かえつ有明中・高等学校 田中理紗先生(以下、田中先生):
本校でもそういうことをしていた時代がありました。担当する教員の専門分野でゼミを開いて生徒を募集するような形で。ただ、この形ですと結局一人あたりの教員が担当する生徒が多すぎたり偏りがあったりといった課題もありまして、結局今のスタイルの方がいいなあと、少なくとも今は思っています。
――守備範囲が広すぎて大変ということにはならないのでしょうか。
田中先生:
何かを教えようとしたらそうなるだろうと思うのですが、私たちは基本的に何かを教えようと思ってはいないので…
――教えない。
田中先生:
フィードバックに徹しているんです。
――むしろ一緒に学んでいくような。
田中先生:
そうです、そうです。実施、授業を担当していても私自身、「この分野はこの子たちの方が全然詳しいなぁ」とか「私、全然知らないなぁ」と思うことがたくさんあるのですが、それでいいんです。面白いことを考える子たちと一緒に学んでいく、むしろ「教えてもらう」ぐらいのつもりで伴走しています。
「答え」にたどりつくことは重視していない
――先ほど、以前はゼミ形式だったこともあるとおっしゃっていましたが、探究の授業の方法はこれまでにいろいろと変わってきたのでしょうか。
田中先生:
それはもう、変わっています(笑)。なぜかと申しますと、私たちが考えているのは常に「これからの時代に必要な学びとは何か」なんです。ゼミ形式でやっていた時代は、研究論文を書かせることが大切だと私たちが考えていた時代でしたし、それ以外にも、たとえばクリティカルシンキングをサイエンス科で行っていた時代もありました。
それらを今やっていないということは、私たちがそれを一番大切とは思っていない――少なくとも「今は」そう思っていないということなんです。ですから、今こうやってお話していることもまた近いうちに変わるかもしれません(笑)。
――そうお聞きすると、かえつ有明さんが今、何を大事だと思っていらっしゃるかを知りたくなってしまいます。何かヒントをいただけると嬉しいです!
田中先生:
そうですね…今は、「つながり」と「自分軸」が大切だと思っています。すべてがつながっていて、そのつながりの中でお互いを生かし合う社会へと変わってきた今、その中でつながりを意識しつつ、自分は何がしたいのか、どんな世界を創り出したいのかという「自分軸」を見つけていくことが大事だと思っています。
――「つながり」と「自分軸」がサイエンスとプロジェクトの授業を通して生徒さんに探究してもらいたいもの、ゴールであるならば、探究学習を通じて何か「一定の答え」にたどり着くことの重要性はそこまで高くなさそうですね。
田中先生:
おっしゃるとおりです。まったく高くありません。ですから、生徒たちの探究テーマがコロコロ変わっていったとしても、それは彼らが自分軸を探しているというだけのことですからまったく問題ありませんし、それに対して何点といった点数をつけること自体が不毛なんじゃないかと私たちは思っているんです。
フィードバックは教員から、生徒から
――点数では評価しない。
田中先生:
はい。原則として本校では数字での評価はしないことにしています。「あなたの探究は何点」のように評価をつけられてしまうと、子どもたちはそこで満足してしまい先に進まなくなったり、逆に、自分はその程度なのだと思ってしまったり、そんなことにつながるのではないかなと。
――それではどのような形で評価を?
田中先生:
とにかくフィードバックを大切にしています。彼らがやっていることに対して、私たち教員がそれを聞いてどう感じたかを私たち自身もフィードバックするのですが、生徒同士のフィードバックもすごく大事にしています。先ほどの数字のお話で申しますと、数値での評価軸としてルーブリックもあるのですが、これはあくまで生徒同士のフィードバックをしやすくするために設けているものであって、教員が評価をするための評価軸みたいものなのは設けていないというのが正直なところです。
――ありがとうございました!次回は、中学校での探究がさらに進化する中で生まれた「高校新クラス」の現在などについてお話をうかがいます。
特集「かえつ有明の探究をひもとく」
第1回:「安心・安全」あってこその探究
第2回:探究テーマが見つかる環境の整え方
第3回:テーマは自由?継続性は重要?
第4回:学び方は自分たちで決める!高校新クラス ←次回はこちら
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