生徒さんのやる気を引き出し、改善に向けて具体的な一歩を踏み出せるようにうながすフィードバックってどんなふうにすればいい?タイミングは?方法は?忙しい業務の合間にもできる?などのお悩みをお持ちの先生方にお役立ていただくため、さまざまな角度からフィードバックについて考えていく連載です。
探究学習に限らず、教科学習や進路指導などおいても、フィードバックの必要性が高まっています。今回は、タイミングや頻度をどうしていくかという「フィードバック×時間」というテーマで考えてみようと思います。
連載:フィードバックを考える
第1回:小論文の添削、どうしてますか?
第2回:レポートや論文の添削、どうしてますか?
第3回:ハイペースなフィードバックは誰得?←今回はここ
どのようなタイミング、どのような頻度でフィードバックを行うべきかという問題は、タイミングや頻度そのものに固定化されたメリット・デメリットがあるならば、それを整理することで最適解を導き出すことができます。しかしフィードバックのタイミング・頻度のメリット・デメリットは、どのような活動に対するフィードバックか、そしてどのような生徒に対するフィードバックかによって変わってくる相対的なものだと思います。その点を踏まえて考えてみましょう。
なおフィードバックといっても、生徒が行うフィードバック(セルフフィードバック)と教員が行うフィードバックでは、その形式・内容が異なっているので、その違いも含めて考えていきます。
目次
フィードバックの「タイミング」を考える
そもそもフィードバックは何のため?
フィードバックのタイミングについて考えるとき、そもそもフィードバックは何のために行うものかを意識しておくことは非常に重要です。この「何のため」を大別すると、「(B1)取り組んだ活動の状態をまとめるため」と「(B2)次の活動に活かすため」になります。
B1は過去・現在の活動を中心に考えたフィードバックで、B2は未来の活動を中心に考えたフィードバックになります。そのためB1は実際に活動した時期にできるだけ近いタイミングで行うことで高い効果を発揮します。これに対して、B2はどのような生徒が活動しているかによって高い効果を発揮するタイミングが変わってくるものです。
人間の脳の構造上、時間が経つと記憶が薄らいでいき忘れてしまうというのは仕方のないことです。そして、人間は記憶を繰り返し取り出し活用することで、忘れにくくなります。そのため、常に探究テーマに関心を持ち、授業が終わった後の放課後や自宅などでも探究学習を自主的に進めるタイプの生徒ならば、B2のフィードバックはその日の活動の最後に行うのがタイミングとして高い効果を発揮します。このタイプの生徒にとっては、次の活動は、活動直後から始まっているからです。
これに対して、授業が終わった後、探究テーマについて考えるのは次の授業のときというタイプの生徒ならば、B2のフィードバックをその日の活動の最後に行ったとしても、次回までに忘れてしまっている可能性が高いです。そこでB2は、その日の活動の最後に記入するB1と一緒に記入するもの(直後B2)と、次回の活動の最初に記入するもの(直前B2)に分けることができます。
そのまま使えるフィードバック書式
ここまで話をしてきたB1、直後B2、直前B2がどのようなものかイメージしてもらうためいくつかの例を示しておきます。
【資料1】 その日の活動の「最後」に記入するもの
【資料2】 活動の「最初」に記入するもの
【資料3】活動の「最初」と「最後」それぞれで記入するもの
フィードバックに「温度差」を付ける
少人数での探究学習ならば、B1とB2の形式を個々の生徒で分けて行うことが可能ですが、1人の教員が多くの生徒の探究学習と同時に関わる形ならば、B1とB2の形式を個々に分けるというのは大変な作業であり、現実的ではありません。
その場合には、教員がB1とB2に対するフィードバックの際に、温度差をつけていくことで、個別最適化のフィードバックに近づけることができます。
フィードバックの温度差を簡単に示すと、自主的に探究活動を進める生徒に対しては、B1・直後B2へのフィードバックのコメント(メールでコメントしたり、生徒が提出したセルフフィードバックシートにコメントを書き込んで返却したり)を丁寧な形かつ早めに返してあげることが大切です。
このタイプの生徒の次の探究活動は、授業後から既に始まっているので、効果的なタイミングは活動の後できるだけ早い段階となります。一方、次回までほとんど取り組まない生徒に対しては、B1・直後B2へのフィードバックのコメントは軽めでも構わないと思います。このタイプの生徒は直前B2に対するフィードバックの方が効果的だと考えるからです。
次に直前B2に対する教員のフィードバックは、自主的に探究活動を進める生徒に対しては、直前B2はそこまで触れなくても問題ないと思います。もちろん授業のスタートで書いてもらうのですが、書くことでその日の活動を自分自身でイメージする役割で十分です。一方、次回までほとんど取り組まない生徒に対しては、授業のスタートで直前B2を書いてもらったあとに、教員が個々にカウンセリングするのが効果的だと思います。
ただ人数が多くなると、カウンセリングの時間を確保するのが難しくなるので、スタートで書いて全員の直前B2を一度回収し、簡単なコメントをつける形のフィードバックが現実的ではあります。その上で特に状況が気になる生徒については、授業回ごとで人数を絞って、直前B2を使いながらカウンセリングするのがベストだと私は考えています。
フィードバックの「頻度」
フィードバックは様々な活動にとって有効であることは疑いのないところだと思います。しかし生徒も教員も自分が持っている時間は有限です。あまりにハイペースの頻度でフィードバックを求められると、負担は増すばかりです。
そこでフィードバック全体を例えば「10」と考え、ハイペース(短い間隔、高い頻度、多い回数)でフィードバックを行う場合には、それを回数で割り算するようなイメージで、1回のフィードバックの中身は「1」のように軽めにする必要があります。そうしなければフィードバックを継続して行うことが難しくなると思います。
逆に、ローペース(長い間隔、低い頻度、少ない回数)でフィードバックを行う場合には、1回のフィードバックの中身は「5」のようにボリュームがあるものにする必要があります。長い間隔を空けたフィードバックにも関わらず、コメントなどが簡素で少ない場合は、フィードバックによって探究活動の質を高めにくくなってしまいます。
活動や生徒のタイプに合わせて頻度を調整
ただ実際にはさきほどのタイミングと同じように、どのような活動なのか、そしてどのような生徒なのかによってフィードバックの頻度の最適解は変わってきます。
まず「どのような活動か」については、「継続して行う探究活動」などの場合は、「毎回(授業ごと)」が良いと考えます。探究活動が授業の1コマで行われているとすれば、その1コマごとに行う形で、記入方法はさきほどの例を見ていただくとイメージできると思います。毎回フィードバックを行うので、1回1回は箇条書きなど軽めにして、負担増を抑えます。
次に「レポートや論文」などの場合は、「どのような生徒なのか」を合わせて考える必要があります。レポートや論文などを作成していくとき、フィードバックは「活動内容の質の向上」だけではなく、「ペースメーカー」としての役割も果たしてくれるものだと思います。特に「ペースメーカー」としての役割については、「どのような生徒なのか」が頻度を考える重要なポイントになってきます。
自主的にレポート・論文に取り組むことができる生徒の場合、「ペースメーカー」としての役割はそれほど必要ではなくなるので、フィードバックの頻度は低くても問題ありません。また、例えば「1か月に1回」などのような定期的なものだけでなく、生徒から必要に応じて質問を投げかけることができる形があった方が良いと思います。これは頻度というよりもタイミングの話になってしまうかもしれませんが、自主的にレポート・論文に取り組むことができる生徒にとってのフィードバックは、「活動内容の質の向上」に重きが置かれるため、生徒の疑問や悩みを拾い上げやすい形が必要です。
これに対してレポート・論文の取り組みが積極的ではない生徒の場合、フィードバックは「ペースメーカー」としての役割が大きくなります。このタイプの生徒は、フィードバックの間隔が長すぎると、その間ほとんど進んでいないということも起こり得ます。そのため「1週間に1回」などのように短い間隔で定期的なフィードバックを行いながら、生徒の活動をサポートする必要があります。
まとめ
現在は、探究活動に限らず、学校における様々な教育活動について、定量ではなく定性で考えたり表現したりする機会が増えてきています。そのため、その定性的な活動に対するフィードバックの重要性も高まってきています。そして今回の考察で、フィードバックのタイミングや頻度というものを、固定化されたメリット・デメリットで捉えるのではなく、「どのような活動か」、「どのような生徒か」という対象で捉えることの大切さが見えてきたと思います。今回の考察が、対象を踏まえた個別最適なフィードバックのヒントになれば幸いです。
この記事は役に立ちましたか?
もし参考になりましたら、下記のボタンで教えてください。