【フィードバックを考える②】レポートや論文の評価、どうしてますか?

生徒さんのやる気を引き出し、改善に向けて具体的な一歩を踏み出せるようにうながすフィードバックってどんなふうにすればいい?タイミングは?方法は?忙しい業務の合間にもできる?などのお悩みをお持ちの先生方にお役立ていただくため、さまざまな角度からフィードバックについて考えていく連載です。

前回の小論文のフィードバック・評価に続いて、今回はレポート/論文に対するフィードバック・評価です。今回も、さまざまな学校で探究教育を続けておられる斉藤健先生にお話をうかがっていきます。

連載フィードバックを考える

第1回:小論文の添削、どうしてますか? 
第2回:レポートや論文の添削、どうしてますか? ←今回はここ


探究論文の評価方法をデザイン

――前回のお話では、小論文のフィードバック・評価に関して三段階の変遷をとげてこられたとおっしゃっていましたが、レポート/論文の場合もやはりそのような変遷があったのですか?

斉藤健先生(以下、斉藤):
そうですね。変遷というと聞こえが良いですが、失敗に対する反省・改善と表現した方が正しいですね。

そうですね。変遷というと聞こえが良いですが、失敗に対する反省・改善と表現した方が正しいですね。以前に勤務していた学校では、生徒が20弱のゼミに分かれて探究活動をしていました。そして、中学校の段階で取り組んだ探究活動の成果を高校生の段階で探究論文(2万8千字)という形にしていました。私は当時この学校で探究学習の推進担当をしており、この探究論文の評価についてデザインする立場でした。

この評価については、完成された不動の評価方法というものがあったわけではなく、推進担当(運営)とゼミ担当(現場)で話し合いを重ねながらより良いものを模索していきました。私が担当していたときの評価方法の変遷について、時期を大きく3つに分けると、(A)「ゴールのみ」期、(B)「ゴール>プロセス」期、(C)「ゴール<プロセス」期となります。

――3つの時期のタイトルをお聞きすると、ゴールとプロセスということで、「結果と過程のどちらを重視するか」という話かなと思うのですか、その理解でよろしいでしょうか。

斉藤:
はい。ゴールというのは、結果的・最終的に提出することになる探究論文という成果物に対する第三者の評価を指しています。そして、プロセスというのは探究論文を書き上げていく過程を間近で見てきたゼミ担当による評価を指しています。

「ゴールのみ」期

斉藤:
まず(A)「ゴールのみ」期は、生徒が提出した探究論文を運営側の第三者教員で評価するというものでした。評価項目は【資料1】のようなイメージです。

【資料1】(A)「ゴールのみ」期の評価項目のイメージ

――項目を見る限り、細かく分けてあって特に気にならないのですが、反省・修正のポイントはどこにあったのですか?

斉藤:
この時期は、各項目を〇・△・×で総合的に評価し、全体的な評価をA・B・Cで示すようにしていました。各項目〇・△・×を元に全体のA・B・Cに繋げていく形は、段階的な評価になっているので定量的ですが、形式面と内容面を並列に扱ってしまっていたため、「雑な定量」ではないかという反省がありました。また第三者の教員による評価のみだったので、生徒の普段の取り組みにも焦点を当てるべきではないかという意見があり、それらを踏まえて評価項目の修正をしたのが(B)「ゴール>プロセス」期です。

「ゴール>プロセス」期

斉藤:
【資料2】は、運営側の第三者教員による評価の項目です。

【資料2】(B)「ゴール>プロセス」期の評価項目のイメージ

――(A)「ゴールのみ」期との大きな違いはどこにあるのですか?

斉藤:
一番の違いは、評価を数値化して定量的に把握しやすくしたことですね。以前は項目評価を〇・△・×とし、総合評価をA・B・Cの三段階にしていましたが、数値化することによって何点からが合格になり、さらに何点以上だと優秀作品になるのかが分かりやすくなりました。

さらに論文の内容については、ゼミ担当によるプロセス評価(最大5点)も含める形にしました。そして、形式に関する評価の数値と内容に関する評価の数値を単純に合計するのではなく、形式と内容をそれぞれ別軸として組み合わせたマトリクスの中の位置づけで評価する形にしました。【資料3】が評価マトリクスの説明の抜粋です。

【資料3】 論文の評価方法の抜粋(部分的に省略しています)

――以前のものと比べると、評価が分かりやすくなりましたね。さらにプロセス評価も含められていて、評価としてはかなり良いものだと思いますが、このあとさらに変遷を遂げるわけですよね。この評価方法の反省・修正のポイントはどのようなものだったのですか?

斉藤:
ゼミ担当によるプロセス評価を含めたとはいうものの、最大5点をどうしていくかについては丸投げの状態でした。そのため、ゼミ担当によってかなり甘めであったり、逆にとても辛かったりと、ゼミごとで評価が大きく分かれることに繋がりました。これは「評価の主観性」という課題が顕在化した部分でした。また全体の20点のうち5点で、普段の取り組みに対する比重が軽すぎるのではないかという指摘もあったのです。そこで、「評価の主観性という課題の克服」と「プロセス評価の重視」を踏まえて修正した評価方法をその後の年度では提案していくことになりました。それが(C)「ゴール<プロセス」期の評価です。

論文評価にまつわるさまざまな悩みに向き合う

プロセス評価をどう加えるか

――生徒の頑張っている姿をいつも見ているゼミ担当からすると、プロセス評価には思い入れという主観性が強まってしまいそうですよね。それにもかかわらずプロセス評価を重視すると、主観性という課題の克服に逆行してしまうのではないかと率直に思ったのですが、重視と主観性についてどのように折り合いをつけたのでしょうか。

斉藤:
プロセスと表現すると普段の「頑張り」という印象で、客観的に捉えることが難しいと思われがちです。確かに、そのまま「頑張り」がどうだったのかという評価項目では主観性が強まってしまうと思います。

そこで、これまで運営担当が行っていた論文の内容評価の多くの部分を、ゼミ担当に任せることにしました。ゼミ担当は生徒の論文作成のプロセスをよく分かっているので、それらも念頭に置きながらの内容評価となり、プロセス評価がそこに活きてくると考えました。

また内容評価は項目に分け、各項目は1か0になっているので、以前のように5~0のいずれかという幅の広さはありません。こうすることで、プロセス評価への比重を意識しつつ、漠然と高い数値になることも防ぐことができます。この形の評価方法のイメージが【資料4】になります。

【資料4】 プロセス重視の評価方法のイメージ

●形式評価の部分・・・第三者の教員

●プロセス・内容評価の部分(部分的に省略しています)・・・ゼミ担当

――これならば項目が細分化されているので、何に対する評価なのか、先生によってバラつきが出にくくなりますね。段階が1か0になっているのもバラつき防止になっているんですね。 

定性的評価の取り入れ方は?

――ここまでの評価のお話は、誰がどれくらいの割合で、どんな項目を評価するかの変遷で、これらはどれも「定量的」な評価に関わるものだと思います。一方で、「定性的」な評価がないように感じていますが、レポート/論文に対して定性的な評価はされていないのですか。

斉藤:
このような定量的な評価は、論文の合否や優秀作品を決める際の公平性を高めるために導入しました。しかしおっしゃるとおり、定性的な評価がないのは機械的すぎるという意見もありました。そこで、形式評価を行った第三者の教員には、評価コメントを書いてもらう形で定性的な評価も取り入れました。(【資料5】

【資料5】 論文の定性的な評価の部分

評価者側の負担を減らす方法は?

――評価方法についての貴重なお話ありがとうございました。しかしそれぞれの生徒さんが2万8千字もの論文を書くというのは、それを書き上げる生徒さんの苦労は相当なものだと思いますが、それを読んで評価する先生方の苦労もかなりのものなのではないですか。

斉藤:
論文提出は例年1月中旬でしたが、そこから論文を読む運営側の先生方は、空きコマや放課後以降の時間などを使って、毎日夜遅くまで残っておられました。生徒は様々なテーマで論文を書いているので、なおのこと大変でした。

そこで一般的な論文と同様に、「本文」と一緒に「概要」を提出してもらう形にしました。概要は、論文を書く生徒にとっては、論文を書き終えた後、一通り自分の論文を振り返ることができるので、自分の探究テーマの理解をより一層深めるものになりますし、読む側の先生にとっては、まず概要によって論文の全体像を把握できるので、そのあと本文を読んで行う評価の「的確性と効率性」を高めることができます。

本文そのものを読むという事実は変わりませんが、前もって概要を見てイメージできていれば、本文を読みやすくなり結果として時間の短縮に繋がったと思います。ただもともと概要提出のアイデアは、評価方法として「口頭試問」を導入しようと考えていた時期があり、「口頭試問」では概要をベースに進めていく必要があると考えたのが始まりでした。しかし、「口頭試問」は結局アイデア止まりとなりました。なお論文の概要は【資料6】です。

【資料6】 論文の概要のイメージ

今だからこそできる取り組みもあるはず

Chat GPT対策として有効なのは…

――「口頭試問」ですか。かなり本格的ですね。とても素敵だと感じましたが、アイデア止まりになったのはどうしてなのですか。

斉藤:
レポート/論文の評価において、「口頭試問」のようなものを導入できれば、評価の質が高まるので無いよりはあった方がいいとなりますが、理想論でもありました。先生方は、日々の授業、クラス運営、行事運営、校務分掌、委員会活動、部活動など多岐に渡る活動に関わる現状でも十二分に忙しい状態です。それにもかかわらずその業務に、さらに口頭試問に関わる時間(ゼミ担当とすればそのための指導時間、試問に関わる教員ならばその時間)をねじ込むのは現実問題難しかったですね。

――何事も「理想と現実」のバランスをどのようにとっていくのかは非常に難しい問題ですよね。しかし、「口頭試問」のような素敵なアイデアを諦めなればならないのは、先生方にとっては苦しい選択だったのではないですか。

斉藤:
導入見送りは相当悩みました。しかし当時よりも現在の方が、「口頭試問」導入にとって追い風もあるのではないでしょうか。

最近は日本全体で「探究学習」が注目され、高等学校では「総合的な『探究』の時間」もスタートしているので、生徒が主体的な学びを通じて成長することの必要性が高まっています。そして、レポート/論文というものは、書きあがった成果物を読むだけでは伝えきれない生徒の思い・熱量をくみ取る機会が確保されることによって、より質の高い評価が可能となります。

自分自身が大学院で修士論文を書いたときを振り返ってみると、論文を書き上げて提出したことそれ自体、達成感・充実感はありましたが、自分が書いた修士論文を説明したり、質問に答えたりした「口頭試問」が終わったとき、さらに大きな達成感・充実感があったことを覚えています。

それは、自分が書き上げた論文が「読んでもらうために綴った文章(モノ)」から「自分の興味・関心、実際の取り組みなど、思いの強さ・苦労・熱量なども知ってもらえる表現活動(コト)」に変化したからだと自分は理解しています。評価する側も、口頭試問をすることによって、表現者の目、口調、仕草などを介することで、文章だけでは伝わってこない部分を知ることができます。

さらに、現在注目されているChatGPTの教育場面での活用から考えても、口頭試問は有効だと思います。ChatGPTを利用することで、レポート/論文を作成する際、「情報の収集」を効率的に行うことができると思います。しかしChatGPTで検索して得られた文章をそのまま写しただけでは、集めた情報を自分なりに比較したり組み合わせたりという「整理・分析」のプロセスを十分に経験していないことになります。すると口頭試問の際にも、適切に回答できないので、生徒は必然的に集めた情報を自分に取り込む活動として「整理・分析」しなければなりません。また、口頭試問に向けて準備する論文の「概要」も、ChatGPTで得られた情報をそのまま使う形では作成できないので、自分が書いた論文全体を振り返って、その中から大切な部分を自分なりに「情報の収集」をし、それを組み合わせる「整理・分析」をしながら、最終的に限られた文字数にどう収めるか「まとめ・表現」を考える必要があります。

――つまり「口頭試問」は評価の質の向上に留まらないということですね。

斉藤:
主体的な学びにとって「達成感・充実感」は重要なキーフレーズだと思っています。

例えば、探究論文の場合、生徒は自分の関心のあるテーマについて、多くの時間をかけ、大量の文字数で表現しているので、それを完成させたこと自体、大きな達成感・充実感につながります。さらにこの達成感・充実感は、生徒にとっての大切な成功体験になっているのです。

この成功体験は、複雑な問題と向き合い、試行錯誤しながら時間をかけて具体的な形(今回の場合ならばレポート/論文)にした経験であり、生徒の自己肯定感の高まりにもプラスの影響を与えてくれるのです。そしてこれらの成功体験・自己肯定感は、これから先のステージで複雑な問題に直面したとき、(1)心が折れず粘り強く取り組んでいくためのモチベーションやレジリエンス(精神の強さ)、(2)どのように取り組んでいけばよいか着想・方法・計画などをイメージしていくための重要なヒント(方法の豊富さ)にも繋がってくると思います。

レポート/論文評価のこれから

――今後、レポート/論文の評価はどのようになっていくと思われますか。

斉藤:
さきほどもお話させていただきましたが、日本全体で「探究学習」が注目され、高等学校では「総合的な『探究』の時間」もスタートしているので、生徒が主体的な学びを通じて成長することの必要性が高まっています。

本日のお話の前半では「『どのように(How)』評価するのか」が中心になっていました。これは評価の「方法」の部分です。しかしいかに優れた方法だとしても、それを正しい目的で使おうとしなければ、望ましい結果を得ることはできません。蛇足にはなりますが、例えば、よく切れる包丁は、料理という目的のために使えば、美味しい料理の実現に大きく貢献しますが、それを彫刻のために使ったり、戦闘行為のために使ったりして得られる結果は望ましいものとは言えません。話の筋からするとこちらを最初にするべきだったかもしれませんが、評価にとっての大前提は「『なぜ(Why)』評価するのか」だと思います。

――確かに、評価というとどうしても到達点に関わる評価方法のことを考えてしまいますね。しかし出発点を考えることが大切ということですね。

斉藤:
出発点として、「『なぜ(Why)』評価するのか」を丁寧に考えておかないと、誤った方向・方角に進んでいってしまいます。この「『なぜ(Why)』評価するのか」は、「誰のために、何のために評価をするのか」という表現に置き換えることができます。そしてこれらの大枠については、総合的な探究(学習)の時間に関する学習指導要領に示されています。

第1 目 標  
探究の見方・考え方を働かせ,横断的・総合的な学習を行うことを通して,自己の在り方生き方を考えながら,よりよく課題を発見し解決していくための資質・能力を次のとおり育成することを目指す。
(1) 探究の過程において,課題の発見と解決に必要な知識及び技能を身に付け,課題に関わる概念を形成し,探究の意義や価値を理解するようにする。
(2) 実社会や実生活と自己との関わりから問いを見いだし,自分で課題を立て,情報を集め,整理・分析して,まとめ・表現することができるようにする。
(3) 探究に主体的・協働的に取り組むとともに,互いのよさを生かしながら,新たな価値を創造し,よりよい社会を実現しようとする態度を養う。

高等学校、学習指導要領(総合的な探究の時間)

ただこちらは基本的な大枠なので、実際には各学校がレポート/論文を通じて、どんな知識・技能を得てほしいか、どんな人格形成をしてほしいかをより具体的に定めていく必要があります。

人格形成の部分では、レポート/論文を作成する活動を通じて、達成感・充実感、成功体験、自己肯定感を得ていくことが、生涯にわたって主体的な学びを続け、自らを成長させていこうと思うモチベーションやレジリエンスの礎になると私は考えています。以前勤務していた学校で、探究の推進担当として、「学校が目指す人間像×探究」の概念図を作成したことがあります。【資料7】はそのときの概念図の一部です(かなり昔のものなので、現在はもっと洗練されていると思います)。

これを年度の初めのゼミ担当者会議などで共有し、探究活動をスタートしていました。このように「何のための・誰のための探究」なのかという目標を最初にイメージし、それに基づいて「『なぜ(Why)』評価するのか」を考えていくことで、必要になってくる評価項目(「『どのように(How)』評価するのか」)が明らかになってくると思います。

【資料7】 「学校が目指す人間像×探究」のイメージ

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「学びと探究」(愛称:まなたん)のサイト管理者。オンライン合同学校説明会(https://www.jhschool.site/)の主催者でもあります。

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