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点数評価と段階評価、どちらを使う?その判断基準は
――先ほどの表では「〇 △ ×」と数字の両方が評価に使われているんですね。
斉藤:
はい。フィードバック・評価をするときにまず悩むことのひとつに、点数とABCなどの段階評価のどちらを使ったらよいのかという問題があると思うのですが、どちらにも長所と短所がありますので、私は両方を組み合わせた形で評価表を作っていました。
――長所と短所。具体的に教えていただいてもよいでしょうか?
斉藤:
〇△×の長所は全体を俯瞰して、どの観点が強いのか、弱いのかが判断しやすいということです。それぞれの観点の〇△×に注目して、一番弱い観点を修正するのか、あと一歩の観点を完成させるのかなど、次にどこから取り組むべきか優先順位を意識した行動の作戦も立てやすくなります。
一方、〇△×では「〇が最も良く、その次が△で、×が最も悪い」というイメージは持てますが、さらに細かい段階にしようとすると、別の記号を登場させる必要があり、例えば◇や▲を加えた場合、その序列が分かりにくくなるのが短所です。そのため、記号は段階を細かくするのに適していないことが分かります。
これに対して、数値の長所は、結果の分かりやすさ・見やすさと、段階の細分化のしやすさだと思います。数値はそれ自体が序列の性質を持っているので、そのまま使えます。それはアルファベットも同様で、AからZまでを使えば26段階を簡単に示すことができます。
ただ数値にしてもアルファベットにしても、序列化のしやすさの裏返しとして、細かく分けすぎると隣り合う2つの段階の差も小さくなるので、逆に煩雑な印象を受けてしまうという短所があります。そのため、大枠としての評価を〇△×の三段階に留めながら、もう少しで〇なのか、まだまだ×に近いのかなども分かるように、各段階の内部に含める形で数値による評価を使うことにしました。
フォーマット形式は効率化に役立つ。しかし一方で…
――フォーマットにしたことによるメリットはどんな所にあるのですか?
斉藤:
一番のメリットは、フィードバック・評価に要する時間を短縮することができるということですね。生徒が提出してくれる文章は多種多様ですが、フォーマットの観点に当てはめることで、統一的なフィードバック・評価となります。そして受け持ちの答案が多くなっても、個々の答案での採点のブレが起こりにくくなるので、結果として効率的なフィードバック・評価になりました。
――それでは反対にフォーマットにしたことによるデメリットはありましたか?
斉藤:
〇△×や数値だけでは上手く伝えられないことを、フォーマット内にコメントで追記する形にしていたのですが、具体的にどこをどう直すべきかイメージしにくいものになっていました。またフォーマットは全体的・総括的な定量評価なので、自分の状態を一瞬で把握するのには適していましたが、生徒が実際に提出してくれた文章の良い部分と悪い部分の差異が曖昧になるデメリットもありました。
例えば、首尾一貫性の観点についてみたとき、原稿用紙2枚~3枚で書かれた文章全体にわたって飛躍しているわけではない場合もあります。つまり前半は論理が〇、中盤は△、後半は×で、それを総合して最終的に△となっていることもあります。しかしフォーマットで首尾一貫性が△となっていると、前半の良い部分は埋もれてしまうし、後半の×に対する課題意識も薄まってしまいます。そこから生徒にとって実際に有効なのは、総合的に各観点が〇か△かということではなく、書かれた文章の具体的箇所と結びつけて〇△×のような段階を示すことなのではないかと感じるようになりました。
さらに回を重ねる中で、フィードバック・評価する側は、慣れてくるとパターン化できるので時間短縮に繋がり便利ですが、ややもするととりあえず〇△×に当てはめてから、何となく数値を決めるような手抜きっぽいものに向かってしまう危険性も感じるようになりました。
第3段階「ネクストアクション大切期」
――第2段階の反省を踏まえたものが第3段階の「ネクストアクション大切期」ということですね。これまでの第1段階や第2段階のフィードバック・評価との違いはどんなところにあるのですか?
斉藤:
端的に言えば、第1段階と第2段階の融合ですね。
第1段階では実際の文章にコメントをつける定性的なフィードバック・評価だけだったので、頑張っている感は出ますが、生徒からすると何が良くて何が悪いかが分かりにくいという問題点がありました。さらに、フィードバック・評価に要する時間も膨大になってしまっていました。
第2段階では定量的なフィードバック・評価に繋がるフォーマットを利用したので、何が良くて何が悪いかが分かりやすくなりましたし、フィードバック・評価に要する時間の短縮化にも成功しました。しかし生徒は次に何をすればよいか具体的なヒントに乏しいという問題点がありました。
そこで、定性的な部分としてコメントしながら、同時に定量的に自分の段階が把握でき、さらに次に何をすべきかイメージしやすいフィードバック・評価の形にしました。こちらもまずは現物を見ていただいた方が話が早いですよね。
〇△×から「GOOD/BUT/NEXT」へ
――このフィードバック・評価の特徴を教えていただけますか?
斉藤:
生徒が提出してくれた文章自体にコメントするのですが、その際、「GOOD/BUT/NEXT」という言葉をつけるようにしました。
これは第2段階の〇△×と同じような意味合いを持っています。一方、第2段階で用いていた数値についての効果はそれほど大きくないと判断したので、数値は使わなくなりました。それから〇△×はぱっと見は分かりやすい印象がありますが、それは診断結果みたいな分かりやすさでしかなく、実際に次に何をすべきかという将来を見据えた建設的なフィードバック・評価になっていないという反省がありました。
そこで、具体的箇所に対して「〇」のような意味合いを強調したい部分については「GOOD」の段階を示してコメントすることにしました。またそれほどコメントは必要ないものの「〇」であることを伝えておきたい部分は、「GOOD」だけを示して、ポジティブなメッセージを伝えるようにしました。
次に「△」のような意味合いの部分は、あともう少し、ちょっと気になるという感じで、最悪ではないのだけれど言いたいことがあるので「BUT(しかし)」によって注意喚起をするようにしてみました。さらに、「×」のような意味合いの部分は、しっかり修正した方がよいので「NEXT」によって、書き直しの具体的ヒントを示すようにしました。
このように「BUT」はさらに文章を良くするためにはどうしたらよいか、「NEXT」はリライトすべき部分として何を変えればよいかというように、次に取り組むべき具体的なヒントを強調する形にしてみました。
どの箇所についてのコメントであるのかが分かった方がいい
――この形にしてみて生徒さんの反応はどうでしたか?
斉藤:
やはりコメントは具体的箇所と繋がっている方が分かりやすいみたいです。小論文はけっこうな文字数があるものなので、どの箇所についてのコメントであるのかが分かった方が、良い部分と悪い部分もはっきりします。ただ文章にコメントをつける形は、コメント数が増えがちなので、大人数を同時指導する際にどうしても教員の作業量・作業時間が膨大になってしまいます。
――その点についての改善案をどのようにお考えですか?
斉藤:
具体的箇所にGOOD/BUT/NEXTでコメントする形を基本にしつつ、大人数であってもさばけるようにコメントの量を抑えるため、センテンスではなくキーフレーズのような表現で簡素化させていくことが必要かなと思っています。
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